内容は、大臣の発言の真意を忖度してさらに敷衍したお話と言って良い。
 本文の中で、筆者は

 「美術館や博物館、それに所蔵物は10年ごとに見直して、原則20年で全面リニューアルか廃止にしてはどうか。」

 と言っている。
 この記事の書き手が、あてつけやもののたとえでなく、本当にこの通りのことを文字通りに主張しているのだとすると、思うに、彼が大いに持ち上げているフランスのルーブル美術館も、たぶん無事では済まない。大英博物館も、エルミタージュ美術館も、軒並み、シンガポールの空港の中のスーベニアショップみたいなものに生まれ変わることになるだろう。

 でもまあ、山本大臣の言う「観光マインド」というのは、要するにこういうことなのである。

 一部の政治家やコンサルタントが博物館や美術館を目の敵にする傾向は、いまにはじまったことではない。

 美術館や博物館に対しては、以前から「税金の無駄遣い」「美術や学芸の利権を独占する特権階級による資産のかかえこみ」という声はあがっていたし、町おこしや観光地の集客事業にかかわる関係者からも、「1000円に満たない入場収入で観光客を何時間も足止めさせる観光事業への妨害施設」といった感じの意見が出ていた。

 つまるところ
「観光客にカネを使わせない施設は無駄だ」
 というお話だ。

 個人的には、この種のものの見方は、短絡的に過ぎると思っている。

 美術館や博物館自体が、単体で地域の収益に貢献していなくても、それらを目当てにその地域を訪れる観光客は決して少なくないはずだ。美術館に立ち寄った訪問客が、美術鑑賞だけをしてメシも食わずにまっすぐに帰宅する、と決まりきったものでもない。当然、美術館の客は、飲食もすれば宿泊もするし、別の観光施設を訪れることもあれば、土産だって買う。ということは、美術館は、十分に地域に貢献しているではないか。

 逆に考えて、たとえばの話、ルーブル美術館の無いパリや、大英博物館を最新のアミューズメントパークに改装したロンドンに観光客は集まるだろうか。あるいは、エルミタージュ美術館をまるごとカジノにリノベーションしたサンクトペテルブルクは、魅力を増すのだろうか。ちょっと考えれば誰にだってわかるはずのことだと思うのだが。

 それでもなお、学芸員のような立場の人間に「観光マインド」を求める声は消えない。

 学芸員に観光マインドを求める態度は、大学の教員や医者に「接客マインド」を求め、研究者に「起業家マインド」を要求する昨今流行の市場経済万能主義から派生した拝金思想と軌を一にするもので、ついでに申し上げるなら、そもそも「古い」からこそ価値を持ちこたえている博物館や美術館の収蔵品に「リニューアル」を求める思想の本末転倒の浅薄さは、文楽に現代的な演出を求め、仁徳天皇陵を電飾でデコレーションして世界遺産登録を促そうとする政治家の馬鹿さ加減と見事なばかりに呼応しているわけで、結局のところ、この人たちは地域をネタに一儲けをたくらむ野盗コンサルの手先みたいなものなのだ。

 さて、山本大臣の発言が、閣僚の資質を疑わせるに足る問題外の失言であるのだとして、しかしながら、だからといって彼が即座に更迭されるべきであるのかどうかは、また別の議論になる。

 10年前の常識なら、このレベルのバカな発言を漏らした大臣は、まず一もニも無く、即座にクビだったはずだ。
 それが、昨今は、そういうことでもなくなっている。

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著者プロフィール

小田嶋 隆

小田嶋 隆

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

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