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大統領の大恋愛はお好き?

2017年5月12日(金)

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 フランスの大統領選挙は、決選投票の結果、エマニュエル・マクロン氏が当選した。5月14日付けで、新大統領に就任する運びになっている。

 当選直後の各メディアの記事をひととおり見回してみると、マリーヌ・ル・ペン大統領誕生の可能性が消えたことに安堵する反応が目立つ。

 まあ、当然だろう。直前になって翻意したものの、長らくEU離脱の意向を表明していた彼女がフランスを率いる未来像はどう見ても剣呑だし、ヨーロッパの大国であるフランスが、排外的な民族主義にシフトする未来像も、素敵な結末とはいえない。とすれば、マクロン氏がいかなる人物で、この先どんなタイプのリーダーシップを発揮することになるのであれ、とにもかくにも、あからさまな極右の指導者であるル・ペン大統領の誕生よりは穏当だと考えるのが、外国人のリアクションとしては通り相場だ。

 個人的には、マクロン氏のプロフィールを伝える記事の中に「金融のモーツァルト」というフレーズが登場していたのが面白かった(朝日新聞DIGITAL「華麗なる経歴『金融のモーツァルト』最年少で仏大統領に」)。

 「○○のモーツァルト」という形式の成句は、「○○」のところに地名を代入したフレーズとして流通しているケースが多い。その場合、「○○のモーツァルト」は、○○にハメこまれた国なり地域を代表する音楽家を意味する。「浪速のモーツァルト」が代表的な例だ。どこの国にも、どんな町にも、その場所なりのその地域にふさわしいモーツァルトがいる。そして、それらの一人ひとりの田舎モーツァルトは、それぞれの地域の音楽に彩りと豊かさをもたらしている。素晴らしいではないか。

 この言い方は応用が利く。

 「静岡のマラドーナ」「ハマのメッシ」「岸和田のベーブ・ルース」「鶴巻町のジョニー・ロットン」「赤羽のプレスリー」「大阪営業二課のイニエスタ」「和製トランプ」「量産型アインシュタイン」てな調子で、われわれは、地域限定のスターと彼らが活躍するフィールドをワンセットの物語として楽しんでいる。かように、身近な誰かを偉大な誰かになぞらえる視点は、世界の解釈をスリリングにしてくれる魔法として、また、退屈な日常に刺激をもたらすスパイスとして、今日も人々を癒やしている。

 そんななかで「金融のモーツァルト」という言い方はちょっとめずらしい。
 ○○のところに、地域ではなくて、「分野」「カテゴリー」「活躍分野」の変数を当てている点が異色だ。

 この場合「金融のモーツァルト」は、「金融の世界に登場した、音楽におけるモーツァルトのような人物」ぐらいなニュアンスになる。「モーツァルト」の含意は、「早熟の天才」あるいは、「特筆すべき才能」といったあたりになるはずで、ということは、マクロンさんは、金融の世界で若くして頭角をあらわした天才的な人物だったのであろう。

 もっとも、皮肉な見方をすれば、モーツァルトの人物像は傲慢不羈な才人を示唆する記号にもなれば、下品な若者の暗喩としても通用する。35歳で病没したモーツァルトの生涯から逆算すれば、39歳のマクロン氏は、まだまだ十分に若いとはいえ、既に死に体の人物だということにもなる。

 いずれにせよ、モーツァルトは、メタファーの素材として、多彩な幻視とBGMをもたらす、極めてきらびやかな素材だ。こういう人物になぞらえられる人間は幸運だと思う。

 もうひとつ印象深かったのは、新たなファーストレディーとなるブリジッド・トロニュー氏に関する報道だ。

コメント43件コメント/レビュー

日本とフランスの最大の違いは、私生活ではなく政治的主義主張で政治家を選んでいるところです。
シラク大統領の婚外子(日本では「隠し子」と報道されたが別に隠してはいなかった)とか、サルコジ大統領が3回結婚しているとか、プライベートは選挙に関係ないのです。
マクロン氏が支持されたのも、もちろん大恋愛が理由ではありません。
(そもそも4人の候補者の得票数は僅差だったそうですし)
プライベートのスキャンダルで騒いでいる日本が異例。
それも全て、スケープゴートだと思ってますけど。(2017/05/20 09:40)

「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「大統領の大恋愛はお好き?」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

日本とフランスの最大の違いは、私生活ではなく政治的主義主張で政治家を選んでいるところです。
シラク大統領の婚外子(日本では「隠し子」と報道されたが別に隠してはいなかった)とか、サルコジ大統領が3回結婚しているとか、プライベートは選挙に関係ないのです。
マクロン氏が支持されたのも、もちろん大恋愛が理由ではありません。
(そもそも4人の候補者の得票数は僅差だったそうですし)
プライベートのスキャンダルで騒いでいる日本が異例。
それも全て、スケープゴートだと思ってますけど。(2017/05/20 09:40)

脱線ついでに。ブラームスとクララが「恋に落ちた」とまでは言えませんね。ブラームスが、敬意以上の気持を持っていたのは確実ですが、師匠の奥さんでもあるわけで、ロベルトの入院中から献身したブラームスではありますが、そこまで思い切れたかどうか。女性に対する思い切りは悪かったように考えています。(根拠はないですよ)
そういった性格だったからこそ、晩年の作品群が充実したとも考えられます。

ところで、挿絵のセリフにブラームスとバッハを持ってきた点は良いセンスだと思いました。(内容は単なるオヤジギャグに近いですが) ブラームスは、バッハの熱心な研究者だったので、それを知っていて使ったのなら、かなりのセンスです。単に、ドイツ人が嫌いということ内容なのかも知れませんけど。(2017/05/15 23:10)

小田嶋さんがサガンの読者だとは思いませんでした。コラムの本筋ではないところで、共感です。
本筋はと言えば、25歳の年の差というネタ、つまり世間の耳目を集める話題性が、不倫云々より数倍勝ったということでしょう。文春も(凋落の)朝日も売れてナンボでしょうから。
それにしても、歴代フランス大統領夫人に関する話題は華やかですね。
余談ですが、男と男、女と女が恋愛、結婚することが個性の尊重であるなら、既婚者と未婚者がつきあっても倫理に反するなどと叫ばないでほしいものです。日本の心を大切にと主張する人たちは、源氏物語以来の日本の性の文化の復活にも言及してほしいです。(2017/05/15 15:01)

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