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「共謀罪」がスムーズに成立する背景

2017年5月19日(金)

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 私の思うに、ここのところの経緯は、相当にややこしい構造を含んでいる。
 説明しようとすれば、一般の国民が自分自身をどんなふうに認識しているのかということと、多くの国民が、どんな国民を「一般国民」であると考えているのかを含む、かなり錯綜した話になるはずだ。

 ともあれ、なるべく順序立てて説明してみることにする。

 まず、大多数の日本人は、自分たちが「共謀罪」によってひどい目に遭うことはあり得ないと考えている。

 なぜ彼らがそう思うのかというと、その根拠は、彼らが、自分たちを多数派だと信じ込んでいるからだ。

 このことはつまり、多数派の日本人が、「共謀罪」を、少数派の日本人(←たとえ表向き「一般国民」であっても)を網にかける法律だと思っていることを意味している。

 では、どうして、大多数の日本人が自分を多数派であると考えているのというと、彼らの自己意識は、そもそも自分が多数派であるという決して動かない大前提から出発しているものだからだ。

 ここの理屈はおかしい。循環論法に陥っている。

 「犬が犬なのは犬が犬を犬だと思っているからだ」みたいな話に聞こえる。が、実際にその通りなのだから仕方がない。大多数の日本人が多数派なのは、われわれが多数派であることを何よりも大切に考えている国民だからで、このことはほぼ全員の日本人が認めなければならない大前提なのだ。

 私の思うに、大多数の日本人は、なにごとにつけて常に多数派であるようにふるまうべく自らを規定している人々なのであって、それゆえ、少数派である瞬間が、仮に生じたのだとしても、その時点で即座に彼は、自分の考えなりライフスタイルなりを捨てて多数派に鞍替えするのであるからして、結局のところ、われわれは、永遠に多数派なのである。

 「彼ら」という主語と「われわれ」という主語が、野放図に使われていることに違和感を覚えるムキもあるかもしれないが、われわれ日本人が自分たち自身を客観視しようとする時、主語は集合無意識の中に溶解するのであって、彼らはわれわれなのであるからして、問題はない。混乱している読者は、まだまだ日本人として修行が足りないと、そう考えるべきだ。われわれは、主語を必要としない。なぜなら、諸君は私であり、私たちはすべてであり、われわれは無だからだ。

 たとえば、われわれは、卒業式で君が代を歌う。
 なぜか?
 国を愛しているからだろうか?
 心から歌いたいからだろうか?
 まあ、そういう人もいるだろう。

 が、大多数の日本人が式典やセレモニーに際して君が代を斉唱するのは、
「ほかのみんなも歌っているから」
 だ。

 振り返ってみるに、ほんの30年ほど前までは、君が代の斉唱が求められる場面で、多くの中高生は、君が代を歌わなかった。

 なぜだろうか。
 彼らは国を愛していなかったのだろうか。
 自分の声を恥じていたのだろうか。
 まあ、そういう生徒もいたはずだ。
 が、多くの中高生たちは、
 「ほかのみんなが歌っていないから」
 という理由で、君が代を歌わなかった。それだけの話なのだ。

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「「共謀罪」がスムーズに成立する背景」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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