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約100回の夜を越えて

2015年6月26日(金)

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 この原稿は、いま、自宅のパソコンで書いている。

 5日後に迫った退院に向けて、準備のために自分の家に帰っているからだ。
 夜の時間帯に用事があって、病院の門限までに戻れない日は、外泊せねばならないということでもある。

 ともあれ、外泊している。

 考えてみれば、自分の家に戻っている状態を「外泊」と呼んでいる現今の状態が、そもそもおかしいといえばおかしい。変だといえば変だ。

 私は、自宅に適応できずにいる。
 で、眠ることがかなわず、真夜中に原稿を書いている。

 なぜ眠れないのか。
 まずそのことについて書こう。

 家に戻ってみてあらためて思うのは、自分がこの3カ月あまりの入院生活を通じて、すっかり病院の暮らしに適応してしまっているということだ。

 たとえば「眠る」ということひとつをとっても、私は病院でなければ安眠できない「型」のようなものを身につけている。

 はじめから説明せねばなるまい。
 そもそも、私が入院したのは、脚を折ったからだ。

 で、病院は、その折れた脚と折り合いをつけるために、さまざまな利便を提供してくれている、実に快適な場所であったわけだ。
 ここが大切なところだ。

 骨折事故当日からしばらくの間、また、手術からまだあまり時間のたっていない期間、患部である左脚は、痛んだり腫れたり熱を持ったりしている。その脚を、少しでも不快でない状態に持って行くべく、病院では、電気式の冷却液循環装置につながった冷却パッドが待機し、動かすことのできない足先に血栓を作らせないために強制的に足の裏を揉みほぐす空気圧式のマッサージ器が投入される。

 最も症状の重い段階を過ぎても、脚は、まっすぐに伸びなかったり、たやすく充血したり、しびれがちであったりする。そして、その種の漠然とした不快感は、入院患者が最も忌むところの不眠に直結している。

 そこで、病院のスタッフは、充血しがちな脚を高い位置に保つために枕やクッションを用意し、曲がった脚が眠っている間に倒れないようにするために細かい詰め物を揃えてくれる。

 そうこうするうちに、脚の痛みは消え、腫れや曲がりも軽快して行く。
 と、その時々の脚の状態に合わせて、ベッドの上での脚の定位置も、その都度、微調整を経ながら、最適化されて行く。

「何を細かいことを」

 と思っている人は、眠りをバカにしながらこれまで生きてこられた幸運な人間であるのだろう。

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