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幻想の鬼ヶ島

2015年7月10日(金)

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「マスコミをこらしめなければならない」

 という台詞をスマホのニュース画面の中に発見した時、私はまだ入院中で、Tシャツに短パンという弛緩した姿のまま、病院の長い午後をやり過ごしていた。

 ああいう格好をしていると、世間の出来事に対して、強い気持ちを抱かなくなる。
 だから私は、病院にいた間、何かに憤ったり誰かを告発しようとは、ついぞ考えなかった。

「ははははは」

 と、力なく笑うのが長期療養者の処世であり、なにごとにつけて「ありがとう」という言葉を繰り返しておくのが患者の作法だったと言っても良い。

 とはいえ、私が笑ったのは、楽しかったからではない。「こらしめる」という言い方があんまり時代がかって聞こえて、それがおかしかったということだ。

「こらしめるだと?」

 私は思った。こういう言葉は、ふつうの現代人は使わない。
 「かたじけない」とか「これは異なことを」と同じく、「こらしめる」は、サムライの時代の言葉だぞ、と。

 私の知る限り、このフレーズを使っていたのは、絵本の中の桃太郎と、あとはケーブルテレビのTBSチャンネルが再放送で流している「水戸黄門」シリーズの主人公、先の副将軍水戸光圀公が最後だ。現実に生きている生身の人間がこの言葉を使った現場には、この20年ほど、立ち会った経験がない。

「角さん、助さん、こらしめておやりなさい」

 と、黄門様は、抜け荷の黒幕の廻船問屋だとか、若い娘を異人船に売り飛ばす口入れ屋に正義の鉄槌を下すにあたって、この古体な動詞を繰り出す。「こらしめる」は、元来、そういう文脈(←身分の高い主役級の正義キャラが典型的な小悪党に制裁を加える場面)でしか使われない言葉で、それゆえフラット化が進んだ21世紀には似つかわしくない。

 今回、自民党の若手議員(といっても50代であったりするあたりからしてすでに時代がかっているわけだが)は、「こらしめる」というこの言葉を何回も強調して、自分たちの気持ちを訴えようとしていた。

 それだけ、おのれの正義と正当性を疑っておらず、先方の悪を確信していたということなのであろう。

 今回は、この話を書く。
 最初に結論を述べておく。

 安倍晋三首相を支援する若手議員の皆さんが抱いていたマスコミ不信は、それを伝えたマスコミの人間が考えているよりは、ずっと広く共有されている感情であり、だから、マスコミ報道をチェックしているだけでは本当のところはわからない。

 おそらく、問題の本質は、ここのところにある。

 つまり、かなり思いがけないことだが、21世紀を生きる少なからぬ国民にとって「マスコミ」は、もはや悪をこらしめる桃太郎の役柄を代表する存在ではないということだ。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「幻想の鬼ヶ島」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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