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ノーベル賞はいずれ海を渡る

2015年10月9日(金)

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 日本人研究者によるノーベル賞受賞のニュースが続いている。

 喜ばしいことだ。
 21世紀にはいってからというもの、さまざまな分野で、この栄誉ある賞に輝く研究者が相次いでいる。ありがたい話ではないか。

 ただ、個人的な感慨を述べるなら、私は、このたびの大村智さんと梶田隆章さんの受賞を、つい先日ラグビー日本代表が南アフリカ代表チームに勝利した時ほど、手放しで喜んでいるわけではない。

 むしろ、マスコミ各社の騒ぎっぷりにいくぶんシラケている。
 あんまりはしゃぐのはみっともないぞ、と思っている。

 わがことながら不可解な反応だ。
 スポーツ関連の出来事だと、私は、ラグビーであれサッカーであれ、自国の代表チームの快挙には跳び上がって喜ぶ男だ。のみならず自分が勝ったみたいに誇らしく思い、なおかつ、自分の手柄であるかのごとくに自慢話を繰り広げる。

 それが、相手が学術研究だと、世界的な快挙に対しても容易に心を開かない。
 奥歯を噛みしめて、クールであろうとつとめていたりする。
 どうしてだろう。
 私は何を我慢しているのだろうか。
 というよりも、なにゆえに私は、学者を差別しているのだろう。

 自覚としてスポーツマンだから?
 違う。

 私は、年季のはいったスポーツ観戦者ではあるが、ほとんどまったくスポーツマンではない。特に団体競技では、いつもチームの混乱要因だった。チームのメンバーとして、まるで力を発揮できなかった。

 かといって、学者なのかというと、まずもってそんなこともないわけなのだが、無理矢理にどちらか一方を選べというのであれば、おそらく学者チームの側の人間ではある。

 アタマが良いという意味ではない。
 カラダを動かすよりは、あれこれ考えている時間の方が長いということだ。ひとつのことを考え始めると、なかなかその我執から離れられない性分だということでもある。学問なり研究対象なりを追究する人間として、優秀なのかどうかは別として、ともかく、学究肌の男だとは思っている。ついでに言えば天才肌でもある。地道な努力が苦手という意味での話だが。

 その、スポーツマンというよりは学者に近い人間である私が、スポーツ畑の快挙は祝福しても、ノーベル賞に対して冷淡に構えている理由は、たぶん、真面目だからだ。

 どういうことなのか説明する。
 高校時代の物理の授業中の話だ。

 その年の一番最初の講義をはじめるにあたって、担当の教師は、「科学的方法論」について語った。その中で彼は、学問が個人や国家のものではなくて、人類に属するものだという話をしたのだ。学問の世界の出来事について、大学の名前や、国籍や、研究所の名前にこだわるのは恥ずかしいことだと、先生はたしかにそうおっしゃっていた。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「ノーベル賞はいずれ海を渡る」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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