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人の値段が安いから「大家族」になる

2015年10月30日(金)

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 第3次安倍改造内閣が発足して間もない10月10日、石井啓一国土交通相は、就任にあたって行われた報道各社とのインタビューの中で、次のように述べた。

「少子化対策のために、祖父母・親・子供の三世代の同居などを促進する住宅政策について早期に実施が可能なものは着手したい」

 奇妙なプランだ。少なくとも、公明党選出の新任の国交相がいきなり持ち出してくるような話ではない。
 果たして、アイディアの出どころは安倍晋三首相だった。

 石井大臣は、同じ会見の中で

「安倍総理大臣からは、希望出生率1.8の実現を目指し大家族で支え合うことを支援するため祖父母・親・子供の三世代が同居したり近くに住んだりすることを促進するような住宅政策を検討・実施するよう指示があった」

 と明かしている。
 なるほど、そういうことだったのか。

 と一応納得はしたものの、まさか、少子化対策として三世代同居を推し進めるみたいな住宅政策が、本当に実行に移されるとは思っていなかった。

 だって、あまりにも的外れだからだ。
 寒さに負けない子供を育てるために散歩好きな犬を飼うみたいな話の方が、まだいくぶん効果がありそうに思える。

 少子化改善のために三世代同居を推進するというプランは、虫歯対策のために穴の空いた靴下を奨励する施策と同じぐらいバカげて見える。確かに、冬の間も穴の空いた靴下をはいていれば、寒くて歯を食いしばる機会が増える関係で、もしかしたら、その分だけ歯が丈夫になるかもしれない。

 でも、本当に少子化を食い止めたいのなら、地味なようでも正攻法でコトに当たるのが本筋だと思う。保育園を充実させ、子育て世代を支援する減税を実施し、若い労働者の正規雇用を促進する策を講じれば、少しずつでも事態は改善するはずだ。

 …と思っていたところ、つい2、3日前、具体策が出てきた。三世代同居のための住宅改修に対して、所得税を優遇するのだという。

住宅改修、三世代同居で所得税優遇へ 政府、出生率低下に歯止め

 という記事に概要が載っている。
 なんと、真正面から三世代同居を押し出してきた。
 驚きだ。

 断言しておくが、私は、三世代同居が少子化傾向の改善に寄与するとは思っていない。子供を持つことが期待される若い世代の多数派が三世代同居を望んでいるとも考えない。

 この記事(SankeiBiz 10月26日)の中に、

《内閣府の調査では、希望する子供数を実現するための必要要素として、3割を超える女性が「父母や義父母の協力」を挙げた。》

 という記述があるが、ここで言う「父母や義父母の協力」は、無論のこと、ストレートに「同居」を意味する言葉ではない。

 子供の預け先や経済的な援助の源泉として、実家や義父母に期待している若い女性は、少なくないはずだ。が、その彼女たちが同居という暮らし方を望んでいるのかといえば、それはまた別の話になる。「同居」の希望を問う質問を別立てでぶつけてみれば、「イエス」と答える若妻は、到底3割にはとどかないだろう。

 もうひとつ気になるのは、記事の中で、同居に向けた住宅の改修工事などの費用の一部を所得税額から控除するプランについて、「所有者の子供または孫が中学生以下であることが条件…」と書かれている点だ。

 この文言を言葉通りに受け止めると、援助の対象は、「既に子供を持っている家庭」に限られていることになる。

 とすると、効果はなおのこと限定される。
 いずれにせよ、国交省が打ち出そうとしている、三世代同居推進の施策は、少子化の歯止めにはなってくれそうにない。

 にもかかわらず、安倍首相がこのプランにことのほか前のめりであるように見える。
 なぜだろうか。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「人の値段が安いから「大家族」になる」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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