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お花畑は燃えているか

2015年11月20日(金)

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 パリで起こった同時多発テロ事件の衝撃は一瞬のうちの世界中を駆け巡った、というこの書き出しの一行の文体は、なんだか、夕方の民放の情報番組がBGM付きで配信している扇情的なニュース原稿のコピペみたいだ。

 実際に、あの事件以来、国際社会の空気は切羽詰まった調子のものに変貌している。

 私は、911のテロ事件を受けた半月ほどの間に、アメリカ発のニュース映像の基調がいきなりハリウッドっぽくなったことを思い出している。

 ついでにと言っては何だが、東日本大震災が起こった後に、私たちの国のメディア状況や世論のあり方が、なにからなにまですっかり変貌してしまったいきさつにも思いを馳せざるを得ない。

 世界を世界たらしめているのは、平時の人間の日常的な思想だ。
 が、歴史を新しい段階に追いやるのは、非日常のアクシデントだ。

 天災や、事故や、組織犯罪や、無慈悲なテロや、偶発的な国境紛争や、狂気に駆られた人間が引き起こす想定不能な出来事が、共同体の空気を一変させ、無茶な法律を上程させ、あり得ない決意に向けて人々を促すことになる。

 そして、それらの突発的な出来事がもたらした異様な空気は、集団のインテンシティを硬化させ、ジョークを駆逐し、笑顔を自粛させ、結果として、本来なら通るはずのない法律を成立させ、国家とその成員を、通常なら踏み込むはずのない新たな事態に突入させる。必ずそうなる。われわれはそれを防ぐことができない。

 今回は、テロ勃発後の空気を記録しておきたいと思っている。
 テロ対策への処方箋を提示するつもりはない。
 テロ事件勃発以来、われわれをとりまいている雰囲気が、いかにとげとげしいものになっているのかを、なるべくあるがままに書き留めておくつもりでいる。

 理由は、この先の10年ぐらいの間にうちの国で似たような出来事が起こった場合に備えたいと思っているからだ。私は、そういう非常時にあらためて読み直すための、人々の過剰反応を記録したテキストを書き残すつもりでいる。

 不謹慎と思われたかもしれない。
 だがアクシデントは、いずれ必ず起こる。
 天災なのか、事故なのか、軍事的な衝突なのか、越境事案なのか、テロなのかは、まだわからない。

 とにかく、そういう人心を一変させるような異常事態がこの国で起こった時、世論は、間違いなく沸騰する。必ずそうなる。テンパった顔のニュースキャスターが画面を指差して裏返った声で読み上げる原稿が、われわれを走り回らせることになるに違いないのだ。

 で、私としては、その沸騰しているであろう近未来の世論に小さな風穴を開けるためのテキストを、あらかじめ用意しておきたいと考えた次第で、その意図のもとにこの原稿を書いている。

「な、落ち着けよ」

 と、その言葉を言う人間は、おそらく、「非常時」が来たら、血祭りにあげられる。
 だから、非常時が来る前に、前もって

「なあ、兄弟、熱くなるなよ」

 という意味のテキストを書き残しておく所存なわけです。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「お花畑は燃えているか」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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