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カタキ役のいないW杯

2017年11月24日(金)

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 来年の6月に開催が予定されているFIFA2018ワールドカップ(以下「W杯」と表記)ロシア大会に出場する、32カ国の代表チームが決定した。

 大きな話題を呼んでいるのは、イタリア代表が60年ぶりにW杯への出場を逃したことだ。

 大変に残念な結果だ。

 私は、必ずしもイタリアのサッカーが大好きな観戦者でもないのだが、彼らの敗退には自分でも意外に感じるほど落胆している。

 それほど、彼らは特別な存在だった。

 サッカーの世界において、イタリアは、強豪チームでもあれば名門チームでもあるのだが、それ以上に、ある種の憎まれ役として決勝トーナメントの舞台には欠かせないキャラクターだった。

 佐々木小次郎のいない宮本武蔵物語が狙い通りのスリルを演出できず、ダースベーダーの出演しないスターウォーズのエピソードがたぶん観客を魅了できないのと同じように、イタリアが出場しないW杯は、多くのサッカーファンを失望させるはずだ。

 ひいきのチームをじわじわと苦しめるイタリアが、アンチフットボールの旗手として一方に覇を唱えていてくれないと、こちらの闘志がうまく起動してくれないからだ。

 イタリアの選手たちが毎度毎度展開せずにおかない守備的なサッカーは、正直に言えば、私の好みには合わない。が、それでも、彼らの重苦しいボール運びと、あざやかなタイミングで繰り出される乱暴なようでいてエレガントなスライディングには、いつも感心させられる。

 とりわけ、アジアやオセアニアのチームを相手にしたときの、ニシキヘビが子鹿をじわじわと絞め殺す時みたいな底意地の悪い勝ちっぷりは、芸術的ですらある。

 スキラッチ、インザーギ、デルピエロ、バッジオといった、ずる賢かったり抜け目がなかったりする前方の選手の華やかなプレーぶりと、マルディーニやバレージやカンナバーロをはじめとする堅忍不抜で秋霜烈日でガチムチな後ろの方の選手のどこまでも苦み走った渋さの対比が、イタリア代表ほど際立っているチームはほかにない。その意味でも、見る側に演劇的なカタルシスを感じさせるこのチームの不在はロシアでのW杯をさびしいものにすることだろう。

 でもまあ、実際に大会がはじまってしまえば、案外、誰もイタリアのことなど思い出さないものなのかもしれない。

 その場にいない者は忘れられる。
 サッカーファンはとりわけ不在者に冷たい。

 2002年大会の日本代表監督だったフィリップ・トルシエが、
 「いない人間は悪い」
 というフランスの(←たぶん)ことわざを引用したことがある。

 そのことわざを、当時のいくつかのスポーツ新聞の記者は、代表チームへの招集に応じなかったある選手(イタリアにいて来日しなかった)を非難する言葉と受けとめて、トルシエとその選手の確執を煽る記事を書いた。

コメント57件コメント/レビュー

小田嶋さんのことを批判したり、酷評しているコメント、こんなコラム書くのやめろ的なコメントを投稿する人に限って、毎回、隅々までこのコラムを読んでいる愛読者なんですよねえぇ。
まぁそれが分かっていらっしゃる小田嶋さんは、勿論、そのようなコメントを気にも留めていないんでしょうね。
小田嶋さんなりの切り口があるからこそ、このコラムが成立している訳なので、これからも小田嶋節をよろしくお願いします。
イタリア不在のW杯の詰まらなさ、激しく同意します。(2017/12/06 15:23)

「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「カタキ役のいないW杯」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

小田嶋さんのことを批判したり、酷評しているコメント、こんなコラム書くのやめろ的なコメントを投稿する人に限って、毎回、隅々までこのコラムを読んでいる愛読者なんですよねえぇ。
まぁそれが分かっていらっしゃる小田嶋さんは、勿論、そのようなコメントを気にも留めていないんでしょうね。
小田嶋さんなりの切り口があるからこそ、このコラムが成立している訳なので、これからも小田嶋節をよろしくお願いします。
イタリア不在のW杯の詰まらなさ、激しく同意します。(2017/12/06 15:23)

目くじらをたてる人は、こう言う。「こっちに来てください。ここからこの景色を見れば、私の言っていることがわかります。」と。あなたは、その「景色」を手に入れるのに、一体どれだけ言論の波にもまれてきたのでしょうか。今も溺れかけ、なんとか呼吸をつないで、波間に浮かび、それでいて涼しい顔で言説を紡ぐ人の言葉は、アレキサンドリアの灯台のようだ。目にクジラが立っている人は、丘の上にいる。きっと自らの苦しみに向き合うことができず、心配ばかりしている人。(2017/11/30 18:17)

「全国1,000万人のサッカー・ファンの皆さん、ご機嫌いかがでしょうか。」の名文句で始まる『三菱ダイアモンド・サッカー』を毎週ワクワクドキドキしながら観ていたサッカー少年のひとりとして、長年、同番組の解説者を務め、後にIOC(国際オリンピック委員会)委員も務めた岡野俊一郎さんがご存命であれば、新・国立競技場を巡るスッタモンダはさておき、正式な(Jリーグの理念からすると東京都立か?)国際的サッカー専用スタジアムの建設は進んでいたのかも知れない、などと夢想してしまいます。
 私も、自ら進んでセリエAを観るタイプのサッカー・ファンではありません。ただし、「イタリア代表」だけは大好きで、ユーロ大会やW杯では、ひそかに優勝候補として期待してしまうのが常です(2006年のW杯ドイツ大会では、その甲斐あって多大な恩恵に・・・?)。イタリアがW杯本大会出場を逃して思うのは、祭りには欠かすことのできない、主役を脅かす最重要な仇役のしぶといプレイが観ることができないのが残念だということです。本当にがっかり。さみしくてなりません。
このコラムは毎週楽しく読んでいます。雑音にめげずに書き続けてほしいです。(2017/11/29 18:30)

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