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灰色の“自己啓発残業”へ誘う「過剰適応」の罠

暗黙の指示によるグレーな労働が意識の高い若手を追い込む

2017年2月14日(火)

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 2012年12月。23歳の新人看護師が亡くなった。
 遺体で発見された一人暮らしのアパートには、遺書が残されていた。

「自分が大嫌いで、何を考えて、何をしたいのか、何ができるのかわからなくて。苦しくて、誰に助けを求めればいいのか、助けてもらえるのか、全然わからなくて。考えなくていいと思ったら、幸せになりました。甘ったれでごめんなさい」

 その2日前。夜勤を終えた彼女は、
「11月30日。看護師向いてないのかもー。あー自分消えればいいのに、なんてねー」
と、SNSでつぶやいていたという。

 彼女はなぜ、死を選ばなければならなかったのか――。

 母親は「娘が自殺したのは長時間労働などで、うつ病を発症したことが原因」だとして、勤務先病院の運営主体であった国を提訴。

 その初弁論が、2017年2月3日札幌地方裁判所で開かれ、「帰宅後の、娘の自宅での仕事は一切、時間外として考慮されていない」とする原告(母親)に対し、国側は答弁書で請求を退けるよう求め、争う姿勢を示した。つまり「労災は認められない」と主張したのだ。

 看護師の女性は2012年4月からKKR札幌医療センターに勤務していたそうだ。その翌月の5月の時間外労働は、約91時間。

 5月13日にはLINEで、「この前の初めての夜勤で、事故起こしたんだよね。全盲の患者さんの薬の量、間違ったんだ。それがもう、とどめって感じで」とのやりとりを、友人との間でしていたことが確認されている。

 6月以降も“時間外”は続き、6月は85時間、7月は73時間、8月は85時間で、9月は70時間、10月は69時間、11月は65時間。この中には夜勤も含まれている。

 さらに彼女は帰宅後も、業務に不可欠な知識をフォローアップするため毎晩毎晩、机に向い続け、睡眠時間は2、3時間程度だった。

 作成が毎日義務付けられていた、先輩看護師との間の記録には「なんでその処置が必要か、根拠について確認してください」「知らない時は調べる」といった記述も残されており、彼女が“ひとりの看護師”として、きちんとした仕事をするために寝る間を惜しんで勉強していたことをうかがい知ることができる。

 つまり、今回の裁判のポイントは、時間外労働の長さに加え、仕事に必要な知識を補うための「自宅での仕事」をどう捉えるのか――というのが一つ。また、先の勤務には夜勤も含まれているので、心身に負担がかかる夜勤の捉え方もポイントとなる。

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「灰色の“自己啓発残業”へ誘う「過剰適応」の罠」の著者

河合 薫

河合 薫(かわい・かおる)

健康社会学者(Ph.D.)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数は600人に迫る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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