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インバウンドの数だけで観光立国は望めない

生産性向上で観光業界に良質な雇用と賃金増を

2016年1月25日(月)

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 「観光立国には、自然・気候・食・文化、の4条件が多様性をもった形で揃っていることが必要であり、日本は世界200カ国以上の中で、そのすべてを満たす数少ない国である」

 こう語るのは、『新・観光立国論』(東洋経済新報社)の著者であり、官邸の観光ビジョン構想会議のメンバーでもあるデービッド・アトキンソン氏だ。先日、経済同友会の観光立国委員会にお招きして、お話をうかがい、意見交換する機会を得た。

 日本が観光立国のポテンシャルを持つ国であることは、まったく同感。また、今のままではそのポテンシャルを発揮しきれないとおっしゃっていたが、それにも強く同意したい。

 アトキンソン氏は、日本の「観光に関する常識、思い込み」がいかにひとりよがりで、特に欧米を中心としたハイエンド客から見ると、ずれたものであるかを具体例とデータで示しておられる(ご興味のある方は、『新・観光立国論』をぜひお読みください)。

 私自身はそれに加えて、観光「立国」であることの本当の目的、すなわち「経済成長と国民が豊かになることに資する」ことを達成するための視点や政策が、日本には決定的に欠けていると思う。

 2015年のインバウンド旅客数は2000万人弱に上り、インバウンド2000万人という政策目標は前倒しで達成されるだろう。しかし、単にインバウンド旅行者の数を追い求めるだけでは、観光が経済成長につながり、国民に豊かさをもたらすには程遠い。

マーケティング重視の政策から産業政策への転換を

 第1に、観光関連の雇用の問題がある。具体的には宿泊・飲食業の賃金レベルが他産業と比較しても低く、また、その原因でもあるのだが、非正規雇用比率が75%前後にも達していることだ。良質な雇用と賃金の増加につながらなければ、いくらインバウンドが増えても、持続可能な経済成長や豊かさの創出は難しい。

 第2に、日本国内の観光消費は、2006年の約30兆円から、2014年の約22.5兆円まで大幅に縮小しているという事実がある。伸びているとはいっても、インバウンドに関わる消費は2兆円強に留まっており、日本人の旅行消費の大幅な低下を補うには、とうてい至っていない。

 この2つの課題を乗り越え、本当の意味での観光立国を作り上げていくためには、(アトキンソン氏ではないが)「おもてなし」論だけを振りかざしていても、だめだ。

 まず、日本の観光産業の生産性を上げ、働き手の賃金と雇用の質を高めていかねばならない。賃金増や正規雇用の増は、単純な労働分配率アップでは達成できない。特に小規模な旅館など、低い利益率に苦しんでいる業態では、人件費増は即、赤字転落を意味する。

 経営の効率化、特にオペレーション効率の改善とプライシング・マネジメントを通じた「生産性向上」を果たし、その果実を働き手にも還元するという打ち手が不可欠である。

 これまで、観光政策は「マーケティング」あるいは「インフラ投資」に重点が置かれてきた。ビザ緩和などを通じてインバウンド需要が伸び始めた現在からは、生産性向上につながる「産業政策」こそが、最重要となる。

 具体的には、以下のような施策が有効だろう。

(1)中小事業者が多数分散する業界に、生産性向上につながる経営ノウハウ(例:スタッフの多能化などヒトの稼働率をあげる手法や調達マネジメント、プライシング・マネジメント等)を学び、広めるプラットフォーム作りを、観光庁の政策の柱に。これらは、製造業を中心とした他業界では、ごく普通に行われていることであり、その知見を「読み替え」「使える形に変換する」ことが、まず第一歩となる。

(2)これから全国に作られようとしているDMO (Destination Marketing Organization)を、マーケティング・ハブだけでなくオペレーション生産性向上のハブと位置付ける。スイスなどで広域観光経営を引っ張る存在として、DMOが重要な役割を果たしており、日本でもその導入が始まる。しかし、地方でお話しを聞くと、まだまだDMOはマーケティングのための組織という意識が強い。マーケティングだけではなく、サービス提供者の生産性向上促進のためにも、DMOが果たせる役割は大きいはずだ。

(3)正規雇用を増やせない最大の理由である年間需要の繁閑差を低減させるために、学校の休暇を地域ごとに少しずつずらす、などの政策をとることで、休日の分散化を行う。これは、施設の稼働率を平準化させ、短期雇用ではなく、長期の正規雇用を可能とするし、日本人観光需要の増加にもつながる。

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「インバウンドの数だけで観光立国は望めない」の著者

御立 尚資

御立 尚資(みたち・たかし)

BCGシニア・パートナー

京都大学文学部卒。米ハーバード大学経営学修士。日本航空を経て現在に至る。事業戦略、グループ経営、M&Aなどの戦略策定・実行支援、経営人材育成、組織能力向上などのプロジェクトを手がける。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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