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疾病別に自己負担率変更で、破綻なき財政再建を

公的医療保険改革のコアは給付範囲の哲学の見直し(1)

2015年11月2日(月)

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 骨太2015の財政再建計画が医療改革を重要なテーマとして取り上げている。だが、公的医療保険改革は、これまで期待通りの成果を十分に上げていない。その理由は、改革がパッチワーク的な制度改正に留まっているからである。

 「健康長寿でありたいという願いは、世界中の誰もが、世代を超えて持っている。我が国は、この願いの実現に最も近い位置にいる国であり、その保健医療水準は世界に誇るべきものである。しかし、今や、経済成長の鈍化と人口動態の変化、医療費をはじめとする社会保障費の急増が見込まれる中で、財政は危機的状態にあり、保健医療制度の持続可能性が懸念されている。パッチワーク的な制度改正による部分最適を繰り返してきた日本の保健医療制度は、長期的な視点に基づく変革が求められている」

 この一文は、「保健医療2035提言書」(以下「2035提言」という)の冒頭に登場する文章だ。「2035提言」は、2035年を見据えた保健医療政策のビジョンを策定するため、塩崎厚労大臣が設置した「『保健医療2035』策定懇談会」(座長:渋谷健司・東大教授)が2015年6月に公表した文書。筆者もこの懇談会の構成メンバーを務めている。パッチワーク的な制度改正による部分最適を繰り返してきた日本の保健医療制度が限界に近づいている現状を直視し、抜本改革に向けた哲学(ビジョン)の策定を指示した塩崎大臣の政治判断は正しい。

 2035提言に関するマスコミ等の報道は少ないが、いくつもの重要な提言を行っている。例えば、35ページの以下の記載はその一つである。

まず、患者負担については、現在、後期高齢者の患者負担の軽減など年齢によって軽減される仕組みがあるが、これらについては、基本的に若年世代と負担の均衡や、同じ年齢でも社会的・経済的状況が異なる点を踏まえ、検証する必要がある。この他、必要かつ適切な医療サービスをカバーしつつ重大な疾病のリスクを支え合うという公的医療保険の役割を損なわないことを堅持した上で、不必要に低額負担となっている場合の自己負担の見直しや、風邪などの軽度の疾病には負担割合を高くして重度の疾病には負担割合を低くするなど、疾病に応じて負担割合を変えることも検討に値する

 公的医療保険が担う基本的役割を堅持しつつ、財政再建を行うためには、特に太字部のような「給付範囲の哲学の見直し」が重要であり、それは公的医療保険改革のコアといっても過言ではない。

 というのは、日本の公的医療保険制度は1961年に「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」(Universal Health Coverage)を達成した。UHCとは、高い平等性・手厚いセーフティネットなどにより、国民の誰もが家計破綻や困窮に陥ることなく、必要かつ適切な医療サービスを利用できる状態をいう。

 このような公的医療保険が担う最も重要な役割の一つとして、「財政的リスク保護」(financial risk protection)という機能がある。簡潔にいうならば、偶発的な重度の疾病に対する治療のために家計が破綻したり困窮したりすることを防ぐ機能である。財政的リスク保護は公的医療保険が担う最も重要な役割なので、財政再建で公的医療保険の給付範囲を見直す場合、家計の所得・資産や医療負担に関する分布などを把握した上で、財政的リスク保護が機能するか否か、しっかり見定めたうえで進める必要がある。

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「疾病別に自己負担率変更で、破綻なき財政再建を」の著者

小黒 一正

小黒 一正(おぐろ・かずまさ)

法政大学経済学部教授

1974年生まれ。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。大蔵省(現財務省)入省後、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。専門は公共経済学。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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