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総動員の「一億」から、批評の「一億」へ

一億のイメージ史を辿る(2)

2015年10月17日(土)

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 国民全体を意味する言葉「一億」。この言葉について、イメージの変遷を探る全3回のコラムです。前回(第1回)は「国家総動員の時代」と称して、一億一心、進め一億火の玉だ、一億玉砕といった言葉を紹介しました。第2回の今回は「国家総動員の時代」の続きと「社会批評の時代」について紹介します。

国家総動員の時代(4)一億総懺悔

 第1回でも述べた通り、戦時中、一億という言葉は国家総動員を意味していました。国家総動員法の成立以後に登場した一億一心、太平洋戦争の開戦とともに登場した進め一億火の玉だ、戦争末期に登場した一億玉砕といった言葉たちです。この経緯から分かる通り、一億が絡む言葉のニュアンスは、徐々に悲壮感を増していきました。

 1945年8月15日、玉音放送の日を迎えました。この放送により、ポツダム宣言の受諾が広く国民に知れ渡ったのです。前回も触れましたが、事前にこの放送のことを知った国民の中には「一億玉砕の号令がかかるのでは」と考えた人もいたそうです。

 その2日後である8月17日、鈴木貫太郎に代わって首相に就任したのが東久邇稔彦(ひがしくになるひこ)でした。宮家の一員で、陸軍大将、貴族院議員でもあった人物です。

 この東久邇首相による発言がもとになり「一億総懺悔」という言葉が流行しました。そしてこの言葉が、国民からの反発を受けることになります。一億総懺悔という言葉が誕生した経緯を、ある文献から引用しましょう。

 「東久邇首相はマッカーサーの厚木到着を前に八月二十八日、内閣記者団と初の会見をし、『国体の護持(注:天皇制の維持)は理屈や感情を超越した固いわれわれの信念である』と力説した。この席で有名な一億ざんげ論(原文ママ)が述べられたのである。『ことここに至ったのは、もちろん政府の政策もよくなかったからでもあるが、また国民の道義のすたれたのも原因である。このさい軍官民、国民全体が徹底的に反省し、ざんげしなければならない』」(「昭和のことば―キーワードでたどる私たちの現代史―」雑喉潤ほか著/1988年/朝日ソノラマ)

 少し細かい話になりますが、東久邇首相の発言は「国民全体が(中略)ざんげしなければ」であり「一億総懺悔」と表現してはいない点に注意が必要です(注:なお他の文献では、東久邇首相が記者会見で「全国民総懺悔をすることがわが国再建の第一歩」と発言した、とするものも多いようです。もっともこの場合も「一億」総懺悔とは表現していません。「全国民総懺悔」という表現は、同年9月5日の施政方針演説において登場しました)。

 一億総懺悔という言葉を初めて持ち出したのは、以上の会見を受けて書かれた朝日新聞の社説だと思われます。1945年8月30日付の社説で「正(まさ)に一億総懺悔の秋(とき)、しかして相依り(あいより)相扶けて(あいたすけて)民族新生の途に前進すべきである」という1文がありました。この一億総懺悔が、当時の流行語となりました。

 さて当時の政府にとって、最大の関心は国体護持、つまり天皇制の維持にありました。東久邇首相の発言には、天皇に対する戦争責任の追求を避けようとする目的があったものと見られます。

 しかし国民から見ると、戦争中にはお上からさんざん「一億一心」だの「進め一億」だの「一億玉砕」だのと煽られた挙句、戦争に負けた途端に「一億総懺悔」と言われたことになります。しかも「一億」と表現されたことによって、政府の責任が曖昧になったように見えました。当時は、一億総懺悔という考え方に対する国民の反発も強かったようです。

 ということで、ここまでが「国家総動員の時代」ということになります。この時代の一億は「政府やマスメディアが国民すべてを同じ方向に向かわせるための言葉」だったわけです。

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「総動員の「一億」から、批評の「一億」へ」の著者

もり ひろし

もり ひろし(もり・ひろし)

新語ウォッチャー(フリーライター)

CSK総合研究所を経て、1998年から新語専門のフリーライターに。辞書・雑誌・新聞・ウェブサイトなどに原稿を提供中。2009年より『現代用語の基礎知識』(自由国民社)で「流行現象」のコーナーを担当。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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澤田 秀雄 エイチ・アイ・エス会長兼社長、ハウステンボス社長