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“ニホニウム”に見る自然科学の意義と意味

予想できるものを、なぜ確認するのか

2016年6月13日(月)

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本欄の執筆者松浦晋也氏は、科学分野全般のジャーナリストである。今回は番外編として「ニホニウム」の発見・命名について書いていただいた。(編集部)

 原子番号113番の新元素に、「ニホニウム」という名前が付いた。理化学研究所の森田浩介グループディレクター(九州大学大学院理学研究院教授と兼任)が率いる新元素探索チームが、理研の加速器を使用して生成に成功したものだ。

 そこに山があるからだ――人間の営みの一部は「そこに目標があるからやる」という自己目的的なものだ。新元素の探索は、科学の中でもかなり自己目的的な色彩が強い。新元素の存在は、その可能性だけでなく性質も、現代の原子核物理学で予想することができる。

 それでも「だったらなにも本当に作らなくてもいいのでは……」とはならないのはなぜか。

歴史的にはちょっとしたきっかけで決まっている元素名

 今回の元素名は「日本」由来のものとなった。国名が元素名となった例は、ポロニウム(ポーランド)、アメリシウム(アメリカ)、フランシウム(フランス)がある。そのほか欧州にちなんだユーロビウムという元素や、ドイツの古名ゲルマニアにちなんだゲルマニウムもある。

 実のところ歴史的に見ると新たに発見された元素の名前は、ちょっとしたきっかけで決まっていたりする。有名なのはスウェーデンのイッテルビー(Ytterby)という小さな村で、この村で産出するガドリン石という鉱物から次々に新元素が発見されたことから、イッテルビーという名前の一部を使ってエルビウム(Erbium)、テルビウム(Terbium)、イッテルビウム(Ytterbium)、イットリウム(Yttrium)と、4つもの元素が命名されている。

 が、今や、天然に存在する元素はすべて見つかっており、現在の新元素探索は核反応を使って人工的に新元素を生成するものになっている。

 せっかくなので、ここで高校の物理のおさらいをしよう。

 原子は中心の原子核とその周囲の電子から成る。原子核はプラスの電荷を帯びた陽子と電気的に中性の中性子で構成される。原子核の中の陽子の数を原子番号といい、この数が元素の性質を決める。陽子と中性子の数の合計は質量数という。同じ原子番号でも中性子の数によって質量数の異なる原子核があり得る。これが同位体だ。東京電力福島第一原子力発電所の事故で名前が知られた放射性物質セシウム134とセシウム137は、それぞれ原子番号55のセシウムの同位体である。後ろについている134と137は質量数、つまり陽子と中性子の合計だ。

 だから、セシウム134の原子核は陽子55個と中性子79個で構成され、同137は陽子55個と中性子82個から成る。

 もっとも安定した原子核は原子番号26の鉄の原子核だ。これよりも軽い元素の原子核も、重い元素の原子核も、鉄よりは不安定である。もっとも軽い水素やヘリウムの原子核はくっついて核融合を起こしてエネルギーを発生するし、重いウランやプルトニウムの原子核は割れて核分裂を起こし、同じくエネルギーを発生する。

 軽いほうは原子番号1の水素が一番軽く、それより軽い原子核はない。重い方は、どんどん陽子と中性子がくっついていけば、重い原子核となるが、重い原子核ほど不安定になり、天然には存在しにくくなっていく。実際には安定性には原子核物理学に基づく規則性があって、単純に重いほど不安定というわけではないが、それでも重い原子核になるほど不安定になっていくという傾向がある。

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「“ニホニウム”に見る自然科学の意義と意味」の著者

松浦 晋也

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション作家

科学技術ジャーナリスト。宇宙開発、コンピューター・通信、交通論などの分野で取材・執筆活動を行っている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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