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北朝鮮のミサイル、“目標”はあくまで米国

日本上空を通過した軌道から考える

2017年8月30日(水)

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米国へのエスカレーション戦略の道具

 また、今回の目的は、技術試験目的とも考えにくい。太平洋上の公海への弾着でデータを取るには、弾頭に装備した計測機器からの通信を受信するために船舶を太平洋上の公海に派遣しなくてはならず、手間がかかる。

 5月14日に発射した火星12型は、高度2111kmまで上昇し、水平距離787kmを飛んで日本海に落下した。射程を短くしてその分高く上げる「ロフテッド軌道」という軌道への打ち上げである。この打ち上げならば、データの受信に朝鮮半島東岸の陸上施設が使えるので、技術試験には好適である。また、ロフテッド軌道打ち上げの結果から、最大射程も計算可能なので、あらためて射程を確認するために太平洋にミサイルを撃ち込む意味は小さい。

 このように考えると、今回の発射は、米国を対象としたエスカレーション戦略の一環と見るべきだろう。北朝鮮は、8月9日に米軍基地のあるグアムに向けてのミサイル発射を示唆する声明を出している。その緊張感の演出=エスカレーションの段階を刻むために、いきなりのグアム近海への着弾を避けたのではないだろうか。

 ちなみに平壌国際空港からグアムまでの距離は約3400km。火星12型は4000~5000km程度の射程があると推定されている。なぜ、飛距離が2700kmに留まったのか、その理由は不明だが、推測するなら、飛行途中でミサイルにトラブルが起きた可能性もあるし、エスカレーションの段階を刻むために、搭載推進剤をわざと減らしたのかもしれない。

 今回の軌道をそのまま射程5000kmまで延ばすとミッドウエー島北方500km付近の海域となり、7000kmまで延ばすとハワイ諸島北方1000km付近の海域となる。エスカレーション戦略の中で、今後も北朝鮮がこの軌道を使用する可能性は十分にあるだろう。

 もうひとつ注目されるのは、ミサイルが上昇途中、高度100km付近で3つに分解し、3つともほぼ同海域に落下したことだ。

 同じ海域に落下したことから、分離は噴射による加速の終了後に起きており、また分離後に第2段エンジンなどによる新たな加速はしていないことがわかる。こちらも理由は不明だ。飛距離も勘案すると故障も考え得るが、あるいは火星12は加速終了後に、本体、弾頭、分離機構の3つに分離する構造なのかもしれない。

 単一ミサイルに複数の弾頭を搭載するMIRV(Multiple Independently-targetable Reentry Vehicle:マーヴ)の弾頭分離実験である可能性もある。ただしMIRV実験ならば、少なくとも最初は観測やデータ収集のやりやすいロフテッド軌道で行うほうが合理的だ。

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「北朝鮮のミサイル、“目標”はあくまで米国」の著者

松浦 晋也

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション作家

科学技術ジャーナリスト。宇宙開発、コンピューター・通信、交通論などの分野で取材・執筆活動を行っている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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