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イプシロン2号機の成功と「国防上のブラフ」効果

日本の「棚の上の技術」を富ませるために

2016年12月27日(火)

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 文科省発足により、旧科技庁系官僚は、文部省系のM-Vロケットの廃止へと動いた。1966年の国会報告は「Mロケットの改良」を認めており、それが文部省ロケットの研究開発の根拠となっていた。そこで、まず「M-Vロケットは完成した」ということにして、それ以上のロケット開発の道を封じた。次いでM-Vロケットが高コストであることを理由に、廃止へと追い込んだ。

 この時、M-Vロケットを開発した文部省・宇宙科学研究所(文部科学省・宇宙科学研究所を経て、2003年の宇宙三機関統合により宇宙航空研究開発機構[JAXA]・宇宙科学研究本部。現在はJAXA・宇宙科学研究所)は、M-Vを低コスト化し、かつ運用を簡素化した仮称「M-VA」という構想を実現しようとした。

 打ち上げ能力は強化型イプシロンよりも大きく、1機あたりの打ち上げコストは35億円とイプシロン並みになるという構想で、開発後にH-IIAと同様に民間移転して商業打ち上げに使うことになっていた。が、旧科技庁系官僚側の目的はM-Vの廃止そのものにあったので、宇宙研の主張を聞き入れなかった。

 M-VAは、M-Vの低コスト化と運用簡素化を狙ったもので、現在の強化型イプシロンに近く、早ければ2010年には打ち上げ可能になる構想だった。結局のところ1960年代の文部省と科技庁の遺恨試合は、新型固体ロケットの登場を7年遅らせたと言える。ロケット開発の中心は相模原の宇宙研から、旧科技庁系の筑波宇宙センターに移ったので、旧科技庁的には遺恨試合に勝利、ということなのだろう。

 現在のイプシロンにつながる構想は、M-V廃止にあたって「代償に、より小さな固体ロケットを開発してもいいから」という、組織内外の裏取り引きのような話から始まり、やがて低コスト化と先進的な性能・運用性を兼備した計画へとブラッシュアップされた。しかし開発の道のりは平坦ではなく、何回かのロードマップ変更を繰り返した。開始当初は「H-IIAロケットの固体ロケットブースターを第1段として利用することで、低コストかつ先進的な小型衛星打ち上げ手段としての固体ロケットを開発する」というものだった。が、十分な開発費が確保できなかったことから、搭載機器の軽量化や、衛星分離時の衝撃の軽減などの一部の開発を先送りしせざるを得なかった。

 その中から「できなかったことを、次の段階で開発する」という2段階に分けた開発ロードマップが浮上。さらに、初号機の開発途中で経済産業省が主導する小型衛星計画「ASNARO」の衛星を打ち上げる構想が浮上し、そのままでは打ち上げ能力が不足するため、強力な第2段を新たに開発することになり、今回の強化型イプシロンが開発された。さらにその先にH3と構成要素を共通化した「シナジー・イプシロン」が予定され、同時に強化型イプシロンの成果がH3にも組み込まれる、という流れになっている。

研究開発を継続的に進めるための基盤として

 イプシロン開発の経緯からはっきり分かるのは、「日本には“研究開発し続ける”ロケットが必要だ」ということだ。ロケットというより「研究開発し続ける宇宙輸送システムが必要」ということかもしれない。

 M-V廃止にあたって、宇宙研のMロケットは毎号機毎に新技術が組み込まれ、結果として仕様が異なる“無駄な学者のお遊び(研究開発)用のロケット”と批判された。が、その“学者の遊び”こそが、日本のロケット技術を確実に高め、進歩させてきた。一見役に立たないように思われる研究開発も、確実に「日本の棚の上に技術を積み上げる」役割を果たしてきた。

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「イプシロン2号機の成功と「国防上のブラフ」効果」の著者

松浦 晋也

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション作家

科学技術ジャーナリスト。宇宙開発、コンピューター・通信、交通論などの分野で取材・執筆活動を行っている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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