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冷戦の再来、欧州で高まるロシアとNATOの緊張

プーチン訪日の真の狙いは?

2016年9月29日(木)

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NATOの演習に参加するヘリコプター「アパッチ」(写真:ロイター/アフロ)

 日本のメディアは今、ちょっとした「ロシア・ブーム」に沸いている。ロシア大統領のプーチンが日本の首相、安倍の招きで、今年12月に日本を訪れることが決まったからだ。日本側の目的は、経済協力をテコに北方領土の返還を引き出すことにある。安倍首相が北方領土の返還を切望する気持ちは、よくわかる。

ヨーロッパで高まる緊張

 だが日本では、ロシアと欧米諸国との間で軍事的な緊張が高まりつつあることがほとんど知られていない。プーチン訪日を報じる日本のメディアも、ヨーロッパの緊張についてはほとんど触れない。ドイツに住んでいる筆者には、日本のメディアの沈黙が奇異に感じられる。

 ヨーロッパでは、「東西冷戦」が再燃している。市民の間でも、「新たな戦争の時代が近づいているのか」という漠たる不安感が強まっている。

クリミア併合が引き金

 そのきっかけは、2014年3月にロシアがクリミア半島に戦闘部隊を送って制圧し、ロシアに併合したことだ。同年2月にウクライナで起きた政変で、親ロシア派のヤヌコヴィッチ大統領が失脚し、親EU政権が誕生。新しいウクライナ政府は、EUやNATO(北大西洋条約機構)との協力関係の強化を希望した。

 EUとNATOはベルリンの壁崩壊とソ連解体以降、かつてソ連の影響下にあった中欧・東欧諸国を次々と加盟させて「東方拡大」を続けてきた。かつての東側の盟主、ロシアの勢力圏は小さくなる一方だった。この際にEUとNATOは、シベリア出兵や第二次世界大戦中のナチスによる侵略など過去の経験から「外国勢力の介入」に強いアレルギーを抱くロシアの感情に、十分配慮しなかった。西欧諸国はかつてソ連の一部だった国・ウクライナと協力関係を深めたことで、虎の尾を踏んだ。

 プーチンは、「ウクライナの新政権が、同国に住むロシア系住民にロシア語の使用を禁止するなど、その権益を脅かしている。我々はロシア系住民を守らなくてはならない」として、2014年2月末に、戦闘部隊をクリミア半島に派遣して軍事施設や交通の要衝を制圧。3月に同半島を併合した。

 その後ロシア系住民の比率が多いウクライナ東部では、分離派とウクライナ政府軍との間で内戦が勃発。ロシア政府は分離派に兵器を供与するなどして、内戦に介入している。ウクライナ東部ではロシア軍の兵士が捕虜になっており、同国がウクライナ内戦に関与していることは確実だ。

 EUとNATOは、ロシアの「奇襲作戦」によって、完全に虚を突かれた。21世紀に入って以来、ロシアに対するNATOの警戒感は緩んでいた。

 たとえばロシアが2008年の南オセチア紛争で隣国グルジアに侵攻した時、NATOは強く反応しなかった。EUも本格的な経済制裁に踏み切らなかった。さらに、2014年2月にロシア軍はウクライナ国境付近で大規模な軍事演習を行ったが、NATOは反応しなかった。欧米諸国は、ロシアがウクライナの領土に戦闘部隊を送り、併合に踏み切るとは予想していなかったのだ。

 欧米はクリミア併合に対し軍事的な手段で対抗せず、「冷戦終結後、最も重大な国際法違反」として非難し経済制裁措置を取るにとどめた。プーチンの「電撃作戦」は功を奏したのだ。ロシアがクリミアを併合した直後、プーチンに対するロシア国民の支持率は、一時約80%にまで上昇した。

焦点はスバルキ・ギャップ

 プーチンの強硬な態度に驚いた欧米諸国は、2014年9月にウェールズで開いたNATO首脳会議で、緊急介入部隊の創設を決めた。NATOは、これにより欧州のどの地域にも数日以内に3000~5000人規模の戦闘部隊を投入できる体制を整えた。この措置は、「東欧のNATO加盟国にロシアが侵攻することは許さない」という欧米の意思表示だった。

 NATO関係者は「東西対立がエスカレートした場合に、ロシアが次に併合しようとするのはバルト3国(リトアニア、ラトビア、エストニア)だ」という見方を強めている。その中で焦点となっているのが、ポーランド北東部にある、スバルキという町だ。日本ではほとんど知られていないが、欧米の安全保障、軍事関係者の間では「スバルキ・ギャップ」という言葉が頻繁に使われている。

コメント17件コメント/レビュー

欧州が極東での中国の横暴に無関心であるように、日本も東欧等での外交問題には、極力口をはさまないほうがいい。欧州でゴタゴタするロシアが日本に手をさしのべるなら、払うことはない。問題は米国だが、仮にトランプが勝利すると、米政財界とマスコミは混乱するはずだ。そのあいだに、当然米国の顔色を伺いながら、ロシアとの諸交渉をまとめるべきだろう。
案外日本もロシアもトランプ勝利と言う悪夢を見越して、あの時期のプーチン訪日を画策しているのもしれない。無論日米同盟は今後も維持していく。しかし米国にも利益のある形で、なんとか日露交渉がまとまれば、両国にとりてまさに百年の礎となろう。ロシアとて二度と共産主義には戻りたくない。しかし冷戦終了の屈辱も二度と経験したくない。自らはあくまでヨーロッパの一員と信じながらも、自分たちを欧州と認めない欧米にいら立っていよう。そして表面的な友好とは裏腹に、共産中国など全く信用していまい。ならば残る選択肢は、日本しかないと思う。(2016/10/04 07:01)

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「冷戦の再来、欧州で高まるロシアとNATOの緊張」の著者

熊谷 徹

熊谷 徹(くまがい・とおる)

在独ジャーナリスト

NHKワシントン特派員などを務めた後、90年からドイツを拠点に過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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欧州が極東での中国の横暴に無関心であるように、日本も東欧等での外交問題には、極力口をはさまないほうがいい。欧州でゴタゴタするロシアが日本に手をさしのべるなら、払うことはない。問題は米国だが、仮にトランプが勝利すると、米政財界とマスコミは混乱するはずだ。そのあいだに、当然米国の顔色を伺いながら、ロシアとの諸交渉をまとめるべきだろう。
案外日本もロシアもトランプ勝利と言う悪夢を見越して、あの時期のプーチン訪日を画策しているのもしれない。無論日米同盟は今後も維持していく。しかし米国にも利益のある形で、なんとか日露交渉がまとまれば、両国にとりてまさに百年の礎となろう。ロシアとて二度と共産主義には戻りたくない。しかし冷戦終了の屈辱も二度と経験したくない。自らはあくまでヨーロッパの一員と信じながらも、自分たちを欧州と認めない欧米にいら立っていよう。そして表面的な友好とは裏腹に、共産中国など全く信用していまい。ならば残る選択肢は、日本しかないと思う。(2016/10/04 07:01)

(後編)■トルコへのNATO脱退工作や難民攻撃についても実際にはプーチンはそれほど力を持っているわけではありません。西側の報道があらゆることをプーチンの陰謀とするので、ロシア内では猫が子猫をたくさん産みすぎたのもプーチンのせいにする小話が流行ったくらいです。■せっかくの機会なのでウクライナの親ロシア派の代表的な気持ちを日本の皆さんに伝えます。ウクライナとロシアは何百年も共に暮らしてきて、ウクライナ語もロシア語も互いにそのまま理解しあえます。確かにロシアはドイツと比較すれば斜陽国家かもしれませんが、わざわざ言葉が通じ合うロシアとの縁を切って、言葉すら通じないドイツやフランスと統一国家(EU加盟)をめざして贅沢な生活が手に入るとは思いません。ギリシャの例を見ればその二の舞になるのは目に見えています。ウクライナ西部は昔はポーランドやオーストリア・ハンガリー帝国だったので彼らが独立してEUに向かうことは容認すべきと思います。しかしなぜ、ロシアとの関係を維持したいという人々に戦争を仕掛け、空爆までして無理やり道連れにしなければならないのでしょうか。全く理解できません。
□以上ですが、このような親ロシア派の意見などは日本では全く報道されませんね。また一時、ウクライナの圧政を逃れてロシアに逃げた難民の数が48万人にものぼった(2014.7.8国際連合難民高等弁務官発表)ことはほとんど報道されませんでした。トルコのエルドアンが今行っている難民攻撃ですが、実は最初に仕掛けたのはNATO側だったのです。日本の報道がいかに西側偏重か(全体的な傾向の話)ということがよくわかります。(2016/09/30 15:30)

(前編)□「親戚がウクライナ東部親ロシア派の住民が多い地域に住んでいる者」からの続報です。当コラムの内容をウクライナ国籍ロシア人に伝えた後のコメントです。
■スバルキ・ギャップの件は、コラムとは全く逆でNATO側のカリーニングラード封鎖準備です。バルト3国は仮にスバルキ・ギャップを封鎖されても対岸のスウェーデンやフィンランドからいくらでも海上輸送できますが、カリーニングラードが陸海で封鎖されると完全に孤立し、兵糧攻めにあいます。NATOはここへ軍を展開し、カリーニングラードを奪うぞ、というロシアへの脅迫材料に使おうというものです。第三者的立場の日本の皆さんならどちらがより脅威にさらされているか、判断がつくと思います。■ロシアと中国の件ですが、現在中国を礼賛する国民は相当割合に上っているのは事実です(数値的にはなかなかわかりませんが)。ロシア側のプロパガンダの影響もあり、多くの国民は中国が間もなく米国を抜き去り世界の覇権国家になると信じています。というのも、西欧州人と同様、中国が極東で各国から反発を受けていることや過剰投資で苦悶していることなど興味も関心も薄いからです。しかし、東部のロシア人やソ連時代をよく記憶している年配の人々は中国を信用していません。(2016/09/30 15:28)

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三品 和広 神戸大学教授