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陸軍・宇垣派:満州事変の拡大を一度は抑え込んだ男たち

知られざる昭和陸軍のキーパーソンたち(前編)

2015年8月3日(月)

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1945年の終戦から70年が経った。
これだけの月日が経ってもなお、我々は、この戦争に端を発する問題と直面し続けている――慰安婦問題、韓国徴用工訴訟、閣僚による靖国神社参拝の是非…。
そこで、あの戦争がなぜ起こったのかを改めて考える。
今回のテーマは「昭和陸軍のキーパーソンたち」だ。
戦前・戦中の日本陸軍に対する一般的なイメージはこのようなものだろうか--中国や米国の力を過小評価し、精神論だけで戦争を遂行した侵略的な人々。しかし、その中には対英米協調路線を支持し、満州事変の拡大を一時的にであれ抑え込んだ人々がいた。前編では陸軍・宇垣派を振り返る。(司会は森 永輔・日経ビジネス副編集長)

今回は「陸軍」をテーマに川田稔先生(日本福祉大学教授)と井上寿一先生(学習院大学学長)にお話を伺います。最初のテーマは陸軍の「宇垣派」です。1937年に天皇から組閣を命じられることになる宇垣一成を中心にまとまっていた人々で、満州事変(1931年)*が起きた時には、このグループが陸軍大臣をはじめとする陸軍の中枢を握っていました。

 川田先生がお書きになった『昭和陸軍全史1』を読むと、宇垣派は中国との協調路線を支持しているし、ワシントン体制*も維持する方針を取っています。すごく平和的な考え方をしていた人たちなのですね。この人たちが満州事変以降にパージされて、彼らの路線に戻ることはありませんでした。井上先生は宇垣派をどのように見ていらっしゃいますか。

*:1931年、関東軍が軍事行動を起こし、中国・東北地方の多くの部分を占領した。
*:第1次世界大戦後に打ち立てられたアジア・太平洋地域の秩序。欧州の「ヴェルサイユ体制」に対してこう呼ぶ。九カ国条約によって中国の主権尊重と領土保全を定めた。

井上:これは川田先生のご専門なので、前座としてお話をします(笑)。

 宇垣という人は、戦後までずっと首相候補として名前が挙がるなど、いろいろな政治勢力から期待されました。けれども、いつも、いろいろな横やりが入ります。時には、自らの出身である陸軍からも横やりが入った*

*:1937年に天皇から組閣を命じられるも組閣できなかったことを指す。陸軍が大臣を出さなかった。
井上 寿一(いのうえ・としかず)氏
学習院大学学長。専門は日本政治外交史。1956年生まれ。一橋大学社会学部、同大学院法学研究科博士課程単位修得。学習院大学法学部教授などを経て現職。法学博士。著書に『第一次世界大戦と日本』『吉田茂と昭和史』『政友会と民政党』など。(写真:新関雅士、以下同)

 こうした彼の軌跡を振り返ると、過大評価されているのではないかという気がします。『宇垣日記』を読むと、満州事変が起こった当初、「(陸軍大臣の)南次郎がだらしない」「思った通りにやらない」という不満の言葉が書いてあります。「更迭しなくてはならない」とも読める記述すらあるのです。南は宇垣の直系であるにもかかわらず…。

 資料を読んでいると、宇垣自身が満州事変を支持しているような記述もある。こうした情報に接すると、「宇垣はそんなに立派な人だったのだろうか」と疑問に思います。

 研究者としては、宇垣に期待したいのです。後に登場する「皇道派」*や「統制派」*といったグループに比べれば考え方が穏健だからです。ワシントン体制に順応しようとしていますし、政党とも協力的です。宇垣は民政党と非常に親しい陸軍軍人でした。しかし実際は、満州事変を起こした関東軍に抵抗して不拡大で頑張ったような人なのか、疑問を感じます。

*:陸軍内の派閥。既成の支配体制の打破や、天皇による親政などを主張 。二・二六事件を主導した。
*:陸軍内の派閥。総力戦を戦うための体制準備に力を注いだ。

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「陸軍・宇垣派:満州事変の拡大を一度は抑え込んだ男たち」の著者

森 永輔

森 永輔(もり・えいすけ)

日経ビジネス副編集長

早稲田大学を卒業し、日経BP社に入社。コンピュータ雑誌で記者を務める。2008年から米国に留学し安全保障を学ぶ。国際政策の修士。帰国後、日経ビジネス副編集長。外交と安全保障の分野をカバー。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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