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[326]彼のために弔辞と墓碑銘を書いてあげなさい

2016年1月21日(木)

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Q 助けてください! 大切な人を突発性間質性肺炎で見送りました。昨年11月の半ばにICUに入り、家族でないので最期は会えぬまま、ありがとうも伝えることもできずに旅立ってしまいました。突然で悲しく、何かもっとできたことがあったのではと後悔もありつらいです。悲しみで何度か一人で泣き叫び、頭も身体もおかしくなりそうです。10年程前に10年付き合った人を肺がんで見送っており、肺の病気でなぜ二人も見送らなければいけないのか。今後、どうして生きていったらいいのでしょう。この悲しみが癒えることがあるのでしょうか。

(52歳・女性)

シマジ:「大切な人」というのは相談者が愛した男だろう。

ミツハシ:まあ、そうでしょうね。

シマジ:今東光大僧正が79歳で大往生したとき、葬儀は上野寛永寺で執り行われた。宗教界や文壇だけでなく、政界や財界、芸能界なども含め3000人の参列者が大僧正の死を悼むために集まった。そのとき俺は見たんだよ。寛永寺境内の大きな杉の木の下に隠れるようにして葬儀を見つめる妙齢の女をね。化粧が落ちることも気にせず、わんわん泣きながら葬儀が営まれているお堂を見ていてたんだ。

境内の大きな杉の木の下で、泣き崩れていた女性

ミツハシ:ドラマみたいですね。

シマジ:本当にこういう場面があるんだと俺も感動した。和尚に熱くハグされた女だったんだろうが、はじめて見る顔だったね。俺が知らないくらいだから、あそこにいた3000人の誰もあの女性を知らなかったはずだ。

 悲しい悲しい時間の中で、その女を見たとき俺は少しばかり愉しい気分になった。「人生は冥土までの暇つぶしだ」「墓場に持って行ける秘密が沢山あればあるほど美しく豊かな人生だと」と俺に教えてくれたのが今先生だ。その葬儀を、和尚と親しくしてきた参列者の誰ひとりとして知らない女が、身を隠すようにして見つめている。今先生は宝石のように美しい秘密をいくつも抱えて極楽に行ったんだなと思うと、泣き崩れている女性には申し訳ないが、なんだかうれしくなってね。

 この相談者も同じだろうな。故人を知る人とともに悲しみを共有することが許されず、たったひとりで喪失の悲しみを引き受けなければならない。辛かっただろうね。

ミツハシ:葬儀は遺された者のためにあるなんて言いますが、確かに取り残された事実をひとりで受け止めるのはキツイでしょうね。

シマジ:サマセット・モームは「人生の悲劇は記憶の重みである」と言った。確かに悲しみや後悔、自責の念、自己嫌悪、憎しみなどといったマイナスの感情が記憶と結びつき、胸に刺さったまま蓄積されていくと、人はその重みに押しつぶされる。

コメント3

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「[326]彼のために弔辞と墓碑銘を書いてあげなさい」の著者

島地 勝彦

島地 勝彦(しまじ・かつひこ)

コラムニスト

「週刊プレイボーイ」の編集長として同誌を100万部雑誌に。各誌編集長を歴任後、2008年11月集英社インターナショナル社長を退き、現在はコラムニスト。シガーとシングルモルトとゴルフをこよなく愛する。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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