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この本で随喜の涙を流してくれ

2016年3月24日(木)

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本を紹介してください

Q最近読んだ本で良かったものを何冊か紹介してください。ちなみに本は1冊ずつ読みますか?あるいは併読ですか?

(27歳・男性)

ミツハシ:「乗り移り」も残り2回になりました。次回の最終回は特別編として、「乗り移り」がどのようにして生まれ、どのように続いてきたのか、そんな四方山話をしたいと思っています。

 とういうわけで読者の相談に答える通常スタイルは今回で最後ということになります。掉尾を飾るに相応しい相談は何かと考えたのですが、やはりシマジさんと言えば読書でしょう。今週はブックレビューをやりましょう。

シマジ:ミツハシ、さすが高弟だな。「シマジと言えば女」ではなく「シマジと言えば読書」とは、よくぞ喝破した。俺は女が大好きだ。シガーにもシングルモルトにも淫している。だが、何よりも俺を捕らえて放さないのは本だ。

 女とシガーとパイプとシングルモルト、そしてゴルフやお洒落といったものは、俺の人生に大きな影響を与えてきたが、それらすべてを足したものより読書の影響の方が大きいだろう。よし「乗り移り」最後のブックレビューをやろう。

ミツハシ:では早速1冊目から。

あまりの面白さに一気に500ページ以上を読み終えました

シマジ:『つかこうへい正伝1968-1982』(長谷川康夫著、新潮社)が抜群に面白かった。つかこうへいとは昔、何度か会ったことがあってね。エネルギッシュで熱くて矛盾していて、一緒にいてワクワクする人物だった。

 『つかこうへい正伝』は、慶應の学生だったつかが芝居に出会い、早稲田大学の劇団「暫」に加わって当時の早稲田の学生たちと活動を始めた時代に始まり、劇団「つかこうへい事務所」の解散に至るまでの14年間を576ページにわたって詳述したノンフィクションだ。

 脚本家である著者は、早稲田の学生としてつかこうへいと出会い、役者そして照明係として、劇団解散までつか作品を支えてきた。つねに行動を共にしてきた人物だけに、つかを神格化せず、彼の弱い部分や汚い部分も赤裸々に書いている。その描写の裏側には稀代の劇作・演出家への愛情がしっかりと息づいている。

ミツハシ:私もシマジさんから薦められて読みましたが、あまりの面白さに一気に500ページ以上を読み終えました。1984年に大学生になった私にとって、この本に書かれている時代のつかこうへいの芝居をリアルタイムで経験する機会はなく、深作監督作品の映画「蒲田行進曲」がつか作品との最初の出会いでした。もうちょっと早く東京で大学生活を始めていたら、ここに書かれている熱気や狂気の一端に触れられたかもしれないんですよね。

シマジ:ミツハシは東京オリンピックの年の1964年生まれだよな。この本が最初に描く1968年というのは学生運動がピークを迎えた時期だ。ご存知の通り、その後、運動は急速に下火に向かっていった。若者たちがあり余るエネルギーの向け場を失った時代に、つかこうへいは若者たちを巻き込み、新しい芝居を作っていく。

 そんな14年間を描いたこの本は青春記といってもいいだろうね。つかとの共同作業に熱中というか熱狂した早稲田の学生たちの何人もが大学を中退していくのも、いかにも青春っぽいだろ。俺よりもう少し後に生まれた団塊の世代なら、この本を読んで随喜の涙を流すんじゃないかな。「面白かった本を教えてくれ」と相談を送ってきてくれたのは27歳の男性か。それなら、この本を読んで、ひとりの男の情熱がどれだけのものを作り上げられるかを知り、刺激にしてほしいね。とにかく最近読んだノンフィクションの中ではピカイチだ。

コメント3

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「この本で随喜の涙を流してくれ」の著者

島地 勝彦

島地 勝彦(しまじ・かつひこ)

コラムニスト

「週刊プレイボーイ」の編集長として同誌を100万部雑誌に。各誌編集長を歴任後、2008年11月集英社インターナショナル社長を退き、現在はコラムニスト。シガーとシングルモルトとゴルフをこよなく愛する。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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