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化学兵器テロ、日本でも金正男氏は救えなかった

第5回 中毒は日本の医師でも診断が難しいという現実

2017年4月18日(火)

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 前回までは、私が赴任していた福島原発近くの病院や周辺地域のリアルな状況について書きました。2017年4月からは福島県内の別のエリア「中通り」にある郡山市に引っ越し、市内の総合南東北病院に勤めています。郡山にはまだ来たばかりで、日々手術室に入り浸っていることもあり、この街についてあまり知ることができていません。もう少し知ることができたら、機会をみて書きたいと思います。

新しい勤務先の総合南東北病院

 さて、今回は一風変わって、金正男氏の殺害に使われたとされるVXガスのテロ事件が、もし日本で起きたらどうなっていたかについて、医師の立場から書きたいと思います。事件から約2カ月が経過した今、集めた情報を基に検証します。外科医である私の立場や、救急専門医に聞いた内容も含めて考えました。

 このほど、北朝鮮が大量に化学兵器「サリン」を保有し、それをミサイルで打ち込む能力を持っているという報道もありました。サリンはオウム真理教がテロで用い、多数の死傷者を出したことで有名ですが、物質としてはVXガスと非常に類似しています。そのため本稿で論じる内容は、サリン・ミサイルが日本に打ち込まれたことを想定するのにも多少、役立つかもしれません。

 なお本稿では、「本当にVXガスが使われたのか」という点や、政治的な検討はしていません。

金正男氏殺害が殺害されるまでの流れ

 まず、ニュースなどでご覧になった方も多いと思いますが、複数の報道などを基に殺害までの大まかな流れをまとめます。

 2月13日、金正男氏とされる男性がマレーシアのクアラルンプール国際空港で女性2人に襲われました。顔面に何かを塗られたような状況で、痛みを訴えていたそうです。その後、空港近くの病院に運ばれる途中で死亡しました(記事)。

金正男氏が運ばれた空港近くの病院(写真=AP/アフロ)

 それから2週間後、マレーシア保健相は金正男氏の死因について、「神経性の猛毒『VX』が大量に使われ、正男氏に塗られてから15分から20分程度の短時間で死亡した」と発表しました(報道)。

 ここからは、私の憶測が含まれます。

 空港で具合が悪くなった金正男氏は、周りの人に助けを求め、空港内の診療所に運ばれました。そしてそこで対応した医師は、みるみる具合が悪くなっていく患者を目の当たりにし、ただごとでは無いと感じて救急車を要請したのでしょう。

 救急車に乗せられた患者は、搬送されている途中に呼吸が停止。その数分後には心臓の動きも止まり、死亡に至ったと考えられます。救急車内で蘇生行為が行われたか、あるいは蘇生行為は行われないまま到着前に死亡した――。

 こんなストーリーが考えられます。マレーシアの医療レベルについては、私は現地に行ったことがないのではっきりしませんが、国際学会などでマレーシア大学(University of Malaysia)の病院の医師による発表を聴いたことがあります。アジアの新興国の中には日本と同等以上の知識や技術を持つ医師がいて、ハイレベルな医療を提供しているという事実は医師の間では知られています。

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「化学兵器テロ、日本でも金正男氏は救えなかった」の著者

中山 祐次郎

中山 祐次郎(なかやま・ゆうじろう)

外科医

1980年生まれ。聖光学院高等学校を卒業後、2浪を経て、鹿児島大学医学部医学科を卒業。その後、都立駒込病院外科初期・後期研修医を修了。2017年2~3月は福島県広野町の高野病院院長、現在は郡山市の総合南東北病院で外科医長として勤務。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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