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オスプレイの設計は見事、そして鳥人間の罠

オリンポス・四戸哲社長インタビュー(第6回)

2018年5月10日(木)

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四戸:飛んでいる時の空気の流れを考えてみて下さい。ヘリコプターの回転翼は、翼が回ることで上に浮く力、揚力を発生させます。回転翼が上から見て反時計方向に回っているとして、この状態で前に進むと、回転翼周囲の空気の流れはどうなりますか。

前進するヘリの回転翼にかかる空気の流れ。進行方向右側では回転翼の回転速度とヘリの前進速度が足し合わされて速くなり、左側では前進速度から回転速度を引くことになり遅くなる。

Y:ええと……進行方向に向かって右は、プロペラの回転速度と前に進む速度が足し合わされて空気の流れが速くなりますね。左は逆で遅くなる。ああ、翼は流れの速度に比例して揚力を発生するから右は揚力が大きくなって、左は小さくなります。ヘリコプターは横にひっくり返っちゃいますよ。

四戸:そうですね。ですからヘリコプターの回転翼はサイクリックピッチコントロールということをやって左右の揚力を釣り合わせています。翼の発生する揚力は、空気の流れにたいする翼の上向きの角度、迎え角といいますが、迎え角の大きさで変化します。迎え角が大きいと揚力は大きくなり、小さいと小さくなる。だから今の例だと右側では回転翼の迎え角を小さくして揚力を小さくし、左側では迎え角を大きくして揚力を大きくします。1回転の間で迎え角を周期的に変化させるから、サイクリック(周期的な)、ピッチ(迎え角)、コントロール(制御)というわけですよ。この制御をやっているから、ヘリコプターは効率的に前進できるんです。この制御で同時に姿勢も制御して、前向きに前進する力を生み出しています。

Y:……複雑だということはよく分かりました。

四戸:ところでマルチコプターは空中停止している時は良いのですが、横移動では各ローターはひっくり返ろうとしています。そこでマルチコプターは、プロペラの半数を右回転、半数を左回転にして、ひっくり返ろうとする力を相殺しているのです。ですからマルチコプターのプロペラは必ず偶数です。

 こうすれば、複雑なサイクリックピッチ動作をせずに済む。しかしその代償として、横方向の移動ではプロペラに横方向の空気の流れが入りますので、効率がダダ落ちになるんです。機体が小さくて軽いうちは問題になりませんが、大きく重くなるにつれ、マルチコプターが長距離移動には本来向かない様式だということが露わになるのです。

松浦:じゃあ、マルチコプターも、ヘリコプターのように回転翼を使ってサイクリックピッチコントロールを行えばいいのでは。すでに可変ピッチプロペラというものがあるわけですし。

四戸:そうです。サイクリックピッチコントロールをすればいい。ただしそうなると沢山あるプロペラを全部可変ピッチにする必要があるので、機構的には非常に煩雑になって、モーターの制御だけで飛ぶことができるというマルチコプターの利点が失われてしまいます。結論としては、人が乗るサイズのマルチコプターは、効率が悪すぎて実用的には成立しにくいです。

 でも、プロペラを2つまで減らして、実際にサイクリックピッチプロペラを装備して飛んでいる機体があるんですよ。色々と話題になっているオスプレイです。

松浦:ああっ!

Y:オスプレイに付いているのは、ただの「でかいプロペラ」じゃないのか……。

オスプレイ:米ベル・ヘリコプターとボーイングが開発した垂直離着陸軍用輸送機。主翼の両端に装備したエンジンポッドの向きを水平から垂直まで変えることができ、ヘリコプターのように離着陸し、通常の航空機のように飛行できる。大型輸送ヘリコプターに代わる高速大量輸送手段として1986年から開発が始まり、1989年に試作1号機が初飛行したが、度重なる墜落事故と機械トラブルのために計画は大幅に遅延し、2005年にやっと部隊配備が始まった。日本への配備を巡って反対闘争が起きている。

CV-22オスプレイ軍用輸送機(画像:米空軍)

電動パーソナルモビリティ機はオスプレイ型になる

四戸:オスプレイは空力的に、一本スジが通った機体なんです。だから私は、電動モーターを使った空を飛ぶパーソナルモビリティを考えた場合、目指すべきはマルチコプターではなくて、オスプレイのような形式だと考えています。オスプレイはいちど飛び上がったら今度は主翼で揚力を得て飛行します。翼で飛ぶのは、回転翼やプロペラを回し続けて浮上するよりもはるかにエネルギー効率が良いです。

松浦:オスプレイはあのサイズで軍用輸送機として求められる性能を成立させるために、非常に複雑な機構になっているんですね。

四戸:そこです。電動モーターを動力にするなら、オスプレイ型の航空機は単純な機構で実現できるんです。まず、オスプレイは左右のエンジンをシャフトでつないでいます。どちらか片方のエンジンが停止した場合でも、操縦不能にならず安全に飛行し、着陸できるようにするためです。でも、電動モーターなら、通電したけれど回らないということはまずないですから、そういう機構は不要です。不安ならば片側に装備するモーターを複数にしてもいい。

 あるいは、離着陸だけはマルチコプターの形式で行って、水平飛行に移ったら、マルチコプター部のプロペラは止めてしまうという形式も考えられます。マルチコプター部のモーターが水平飛行では余計な重量となりますが、エンジンの向きを変える機構とどちらが重くなるかは、設計次第でしょう。

 おそらく、オスプレイ型のパーソナル飛行機械は、オスプレイとは全く異なる外見になるでしょう。でも飛行原理は同じです。プロペラを上に向けて垂直離陸し、横に向けて翼で揚力を得て飛行する。

松浦:あるいは、マルチコプターと通常の航空機を組み合わせて、マルチコプターとして離着陸して、航空機として水平飛行するか、というわけですね。

Y:オスプレイの場合、上下動はヘリコプターの「回転翼」、水平飛行は飛行機の「プロペラ」+「翼」。まさにいいところ取りなのか。

四戸:私はオスプレイは、現在の航空工学の粋を尽くした素晴らしい機体だと考えています。特にプロペラは「回転翼兼プロペラ」という設計が必要なので、簡単に真似できるものじゃないでしょう。現在起きているオスプレイの事故は、全く新しい形式の機体に対するパイロット養成課程がどうあるべきかも含めた、パイロットの熟練度の問題であろうと見ています。

ダイダロスが示す“設計する力”

松浦:次にお聞きしたいのは、日本テレビ系列の讀賣テレビが長年開催している「鳥人間コンテスト」です。今、アマチュアが自作航空機をやろうとした場合、一番簡単で、かつ楽しめるのは鳥人間コンテストに参加することでしょう。でも、1977年以降ずっと開催しているにもかかわらず、このコンテストがあったから日本の航空産業が底上げされた、とは思えないのです。確かに人材は輩出していますが。

四戸:鳥人間コンテストは、なんと言いますか、日本人の特性が非常に良く出ていると思います。要は人力でどれだけ長距離を飛ぶかという競技ですが、実はその分野ではマサチューセッツ工科大学(MIT)が、「ダイダロス」という機体を作って、1988年4月にギリシャのエーゲ海で115.11kmという世界記録を出しています。この記録は今も破られていません。

MITが開発し、長距離飛行の世界記録を樹立した人力飛行機「ダイダロス」画像:By National Aeronautics and Space Administration (en:NASA) / Beasley - http://www.dfrc.nasa.gov/Gallery/Photo/Daedalus/HTML/EC88-0059-002.html [1]This image or video was catalogued by Armstrong Flight Research Center of the United States National Aeronautics and Space Administration (NASA) under Photo ID: EC88-0059-002.This tag does not indicate the copyright status of the attached work. A normal copyright tag is still required. https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=874042

 そのことを知った上で、航空機の設計を見ていくと、今、鳥人間で良い成績を出している機体はみんな「ダイダロスの息子」なんですよ。

コメント48件コメント/レビュー

T-2のスポイラーは操舵時に薄翼の一部が上方に回転して翼下面から上面に気流が吹き抜けるタイプなので、たとえ迎え角がゼロでもマイナスでも通常のロール操縦が可能です。
記事全般は非常に興味深く読ませて頂きました。(2018/05/21 20:05)

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「オスプレイの設計は見事、そして鳥人間の罠」の著者

松浦 晋也

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション作家

科学技術ジャーナリスト。宇宙開発、コンピューター・通信、交通論などの分野で取材・執筆活動を行っている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

T-2のスポイラーは操舵時に薄翼の一部が上方に回転して翼下面から上面に気流が吹き抜けるタイプなので、たとえ迎え角がゼロでもマイナスでも通常のロール操縦が可能です。
記事全般は非常に興味深く読ませて頂きました。(2018/05/21 20:05)

>(2018/05/15 12:31)様
(2018/05/14 14:14)です。

>迎え角をゼロ乃至マイナスに取って、翼の揚力と(負の)機首軸線方向が釣り合うために結果として垂直降下できている

機体によって違うので厳密には言えませんが、主翼の揚力がほぼゼロである時、本来主翼よりかなり小さい胴体揚力も、垂直降下時は普通エンジン絞りますから推力の分力としての機体鉛直成分も無視出来ます。
「(負の)機首軸線方向」というのが何をイメージされているのか解りませんが、垂直降下中であれば機体軸線≒地平に対し垂直、これに対し垂直降下中の揚力は地平に対し水平方向に作用します。この揚力=地平に対する水平成分が、迎え角(進行方向に対する主翼の取り付け角度)をゼロあるいはマイナスによってほぼゼロになる、と言う事です。

以前、坂井三郎氏の著書「大空のサムライ」で、「急降下で逃げる敵機に対し、零戦は何故か浮くようで機銃が当たらない」と書かれていたのが思い出されます。これは、ネガティブGつまり揚力ゼロで自由落下に近い状態で降下する敵機に対し、これを照準器に捕らえようとすると機体特性の違いから零戦は主翼に迎え角が残ってどうしても軌跡が機体上方に逸れる(零戦でネガティブG降下するなら、もう少し機首を突っ込まないとイケない)ので撃っても当たらない(弾が敵の上を通る)、進行方向を合わせると今度は機首がやや下を向く=射軸がズレてやはり当たらない(弾が敵の下を通る)、と言う事だったのだと理解出来ます。

あと、オスプレイが美しくないとおっしゃる方が複数いらっしゃいます、美意識は個人差がありますから否定も意見もしませんが、私は同様にA-10やスーパーグッピーにもつきつめた機能美を感じます。(2018/05/16 15:39)

>垂直降下時には、揚力が発生してしまうと機体は地面に垂直な線≒想定する飛行経路に対し、機体の上方向つまり想定経路に対して>>鉛直方向に移動してしまいます。なので、本当に垂直降下したければ、主翼が揚力を発生しないように迎え角をゼロかマイナスにしないとダメです。

主翼は揚力を発生させているため、迎え角をゼロ乃至マイナスに取って、翼の揚力と(負の)機首軸線方向が釣り合うために結果として垂直降下できているということですよね。
つまり、その状態でも翼面に揚力は発生しているはず。であれば、スポイレロンの操作で片翼の揚力が変化すれば、垂直降下中でもロール軸方向に姿勢が変化するのでは? と思うのですが。(2018/05/15 12:31)

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