この連載は、村上春樹さんの『騎士団長殺し』に刺激を受けた筆者が、まじめにイノベーションについて語ろうという企画である。村上春樹さんの意図はともかくとして、この小説には創造的な経営やイノベーションにとって大切なことがたくさん書かれている。『騎士団長殺し』に出てくるキーワードや暗示が、筆者がつい最近出版した『模倣の経営学 実践プログラム版』と似ているのである。今回は連載3回目。

前回までは、『騎士団長殺し』の第1部「顕れるイデア編」に対応するような形で、「顕れる本質」と銘打ち、「ものごとの原型」や「本質」について解説した。今回からは、第2部「遷ろうメタファー編」に対応して「創造のための隠喩」や「なぞかけ」について考えてみたい。小説の筋書きのネタバレにならないように、イノベーションの謎かけについて語ることにしよう。
メタファー
まず、『騎士団長殺し』における、メタファーの登場の場面を引用する(第2部、335ページ)。
「お前はいったい何ものなのだ? やはりイデアの一種なのか?」
「いいえ、わたしどもはイデアなどではありません。ただのメタファーであります」
「メタファー?」
「そうです。ただのつつましい暗喩であります。ものとものとをつなげるだけのものであります。」
メタファー(Metaphor)とは、比喩の一種だが、「~のようだ」と明示的な喩え方をしない隠喩(いんゆ)のことである。
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