中鉢良治の「人在りて、想い有り」
このコラムについて
ソニーに技術者として入社し、その後、経営者として同社を率いた中鉢良治氏。大学院では博士号も取得し、研究者を志した時もあった。現在は、産業技術総合研究所理事長として、研究者と日々を共にし、国立研究機関の指揮を執る。その中鉢氏が、多様な経験を通して培ってきた日本の産業や社会に対する見方、一人の職業人としての人生への想いなどを様々な切り口で描き、日経ビジネスオンラインの読者にお届けする。
著者プロフィール
記事一覧
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2017年10月3日
明治日本の産業革命は奇跡だったのか
8月の初旬、岩手県内の企業を訪問した際に、橋野高炉跡に足を延ばした。ほんのわずかな時間の訪問だったが、幕末の技術者たちのひたむきさが十分に伝わってきた。
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2017年3月21日
もう少しだ、頑張れ!もう少し、頑張る!
誰でも壮年期と言われる年代になると、それまで元気だった親が次第に老いていき、子どもがいれば、その教育も大事な時期を迎える。そして自分達はというと、将来が見えないまま目前の仕事に追われている。
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2017年3月7日
「決める」ということ~決断と断念は等価の関係
何かを決めるということは、別の何かを諦めるということでもある。つまり決断と断念とは等価なのではないかと思う。例えばA案にしようか、B案にしようかと迷っているとする。人生にはこのような岐路がいくつもある...
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2017年2月21日
東京時間と地方時間―東京スタンダードとの離反
東京に出てきたばかりの頃、山手線の駅で乗り換えるとき、周囲の人が皆、駆け足で移動しているのに驚いた。東京では大概数分間隔で電車は来るのに、なぜ人々はこう急ぐのかが私には不思議でならなかった。
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2017年2月7日
本質を伝える捨象と抽象化
一般的には「具体的」に説明する方が「抽象的」な言葉よりわかりやすいと思われることが多い。一方、講演などで個別具体的な話を多く聞かされ、結局何も頭に残らなかったということも度々ある。
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2017年1月24日
趣味と仕事~職業と嗜好は一致させられるか?
仕事をして報酬を得られるというのは、その仕事が雇い主の役に立っているからである。一方、趣味は? こちらは自分が楽しむためのものである。自分自身のためにするものだから、報酬はない。
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2017年1月10日
外国の人にも伝えたい「おもてなし」の心
オリンピック開催地の誘致活動の際、日本には「おもてなし」の精神があることをアピール、それが東京決定の一因となったと言われている。日本流の「おもてなし」ではお客様のことを十分に考え、好みを「おもんぱかり...
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2016年12月27日
年齢とともに変わる時間の価値
子どもの時、いかにも長く感じられたお正月までの期間は、年齢を重ねたせいか、最近はあっという間に過ぎてしまう。時間の感じ方が年齢によって違うという考え方があり、ある人は、時間の長さの感覚は年齢の逆数に比...
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2016年12月13日
「揺らぎ」が組織に与える刺激-雲と積み木の話
不思議なことに雲は、季節ごとに安定したパターンで現れる。ロシア人化学者のイリヤ・プリゴジンは、このような特異な構造形成が行われるための一般的な条件を「散逸構造の理論」としてまとめた。この理論は社会の組...
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2016年11月29日
私の見たアメリカとこれからの日米関係
私の本格的なアメリカとの出会いは1987年。グローバル人材育成の現地研修で訪れた。その後、家族を伴ってアラバマに4年間赴任した。アメリカは好きで信頼しているが、そのアメリカはトランプ政権となることで日...
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2016年11月15日
「自分よし」を「世間よし」につなげるために
例えばあなたは営業担当だとする。この商談をまとめれば、ちょうど自分の売り上げは目標に達するのだが、それをあきらめて、商談を他の人に譲れば会社全体として売上増になるとしたら、さてあなたはどうする?
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2016年11月1日
女性の活躍を考える~多様性と研究職の視点から
経済活動の中で女性の活躍は、社会を支える必須の要素となっている。日本経済の成長性には様々な議論があるにしても、私たちの孫子の世代に持続性ある安定した社会を引き継ぐために、女性が活躍できる環境整備は待っ...
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2016年10月18日
初めての出張~訪ねて知る人と文化
前職時代には海外出張が多かったが、最初の海外出張は思い出深い。入社して2年、渡航先はラトビアのリガだった。周りではラトビアのことを知っている人間はいない。そこでは様々な苦労が待ち受けていた。
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2016年10月4日
巨大な金塊にまつわる人の縁
産総研が運営している地質標本館には、世界最大級の自然金が展示されている。その大きさから「モンスターゴールド」と呼ばれているが、宮城県気仙沼市北部の鹿折金山で明治37年に発見されたものだ。
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2016年9月20日
どう使う? ロボットと人工知能
産業技術総合研究所が企業と共同で開発した「まほろ」というロボットがある。汎用ヒト型ロボットと呼んでいるが、見た目は人間ではない。実はこのロボット、開発の中心となったのは、元々タンパク質の研究が専門の研...
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2016年9月6日
まさかの話~パフォーマンスを妨げる余計な記憶
人生では、「まさか」ということが起きる。リオデジャネイロオリンピックでも、体操の内村航平選手が鉄棒で落下するという「まさか」を目撃した。かく言う私も「まさか」の事例は枚挙にいとまがない。「まさか」を起...
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2016年8月23日
死に直面して変わった仕事への思い~50歳の体験
50歳を過ぎて間もなく、細菌性髄膜炎にかかり「あの世」の淵をさまよった。これを境に仕事に対する考えを改めた。給料や地位や名誉を求めるものではなく、真に「世のため、人のため」を実感できるものとしたいと思...
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2016年8月2日
経営学と心理学――野中先生と河合先生に学ぶ
著書によって大きく影響を受けた二人の先生がいる。野中郁次郎先生、そして河合隼雄先生だ。野中先生の著書は、私にとっていつも普遍的なことを呼び起こしてくれる。また河合先生は、私の心理学の概念を一変してくれ...
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2016年7月19日
夏休み読書の薦め――夏目漱石と井上ひさし
子供のころから本は好きだった。読むものがあれば、良書であろうが悪書であろうが、手当たり次第に読みふけっていた。最初に虜になった作家は、夏目漱石だ。そして井上ひさしも、忘れられない作家の一人だ。
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2016年7月5日
「母なる大地」と「科学の父」
産業技術総合研究所には、地質調査総合センターと計量標準総合センターという少し異色の研究領域がある。そこでの研究は、地道で利益にはつながりにくいが、国の保全と産業の基盤に直接的に関係するものである。