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「決める」ということ~決断と断念は等価の関係

2017年3月7日(火)

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納得したアメリカ赴任

 妻にはどう切り出そうか。2人の子供の教育はどうしよう。小6の長女は卒業間近だ。中学への進学はどうなるのか。次女はまだ小1で、ひらがなすらままならないのに、果たしてアルファベットなんて理解できるのか。などのことがまず頭をよぎった。その上、私たち親子は妻の両親と同居しており、義父は手術直後で健康に不安のある身である。そんなこんなのことで、妻がアメリカ行きに反対したらどうしようか?・・・。しかし、いざとなれば私だけの単身赴任という選択だってある。最悪、この話は断ってもいいはずである。それにしても家族と相談もせずに「行きます!」と返答してしまったことは軽率だったと悔やまれた。3日位かけて慎重に決めるほどの問題なのに変に格好をつけてしまった。

 この夜はいつもより遅い帰宅となったが、食事の後、思い切って妻にアメリカ行きの話を切り出してみた。ところが妻の返答は意外なものだった。「行きましょう!」とこちらもまた間髪入れずの即答である。私は少し拍子抜けしたものの、ひとまずホッとした。それから子供の教育のことや、残していく両親のことなど、夜遅くまで話は続いた。

 布団に入っても今日一日の出来事が思い出され、なかなか寝つけなかった。どうして私が指名されたのか? この疑問が何度も繰り返し湧き上がってくる。赴任経験は自分の将来にはいいことなのだろうが、今でなくてもいいはずだ。開発畑で身を立てようとしてきたこだわりもある。何より私は製造現場での経験もないし、英語もあまり自信がない。このままアメリカに行ったところで役に立たず、かえって無能力者のレッテルを貼られて帰ってくるはめになるかも知れない。一体、社長は本当に私に期待をしているのだろうか。社長の前では「行きます!」と答えはしたものの、これが正しい判断だったと確信できる理由を見つけることはできなかった。

 「何故私が?」の堂々巡りをしている時、ふと思いついたことは、それならば私より最適の人は一体誰だろうか、ということだった。真剣に考えてみた。名前の挙がった人には迷惑な話であるが、一人ひとり名前を思い浮かべ、つぶさに吟味してみた。あれこれ考えているうちに、いや待てよ、ひょっとしたらこの自分が最適なのではないかと思うに至った。確かに今の自分は鼻っ柱が強いだけの技術者に過ぎない。もう少し成長しなければならない。

 考えてみれば数年前にはグローバル人材育成の研修にも出してもらった。マルドメ(まるでドメスティック)な自分に海外赴任という経験が加われば、会社にもっと貢献できる。そうだ何も悪い方に考える必要はない。幸い妻も快く賛成してくれたではないか。よし!ここは迷うことなくアメリカに行って修行して来よう!こう考えてくると妙に気持ちが落ち着き、何だか嬉しい気分になってきた。そんなことを考えているうち、知らずに寝ついてしまった。

 翌朝目を覚ますと、妻は既に子供たちにアメリカ行きのことを話していた。妻はすぐさま子供の幼稚園時代にお世話になったカナダ人先生を訪ね、子ども達の英語の家庭教師を務めてくれるようお願いをしてきた。

 家族がこうして着々と渡米の準備をしている間、私だけ先行してアメリカに発つことになった。現地での家の手配などを終えて数カ月後、いよいよ家族がアメリカにやってくることになった。家族は予定通りアメリカには着いたのだが、こともあろうにその日はアメリカの航空会社がストライキで、国内線のフライトは全てキャンセルとなってしまった。当日、他にも何組か赴任家族がいたので、会社が気を利かせてくれてチャーター機を手配してくれ、その日のうちにアラバマの赴任地に到着することができた。アメリカ到着第一日目にチャーター機に搭乗できたことは私たちにとって思わぬ体験で、よい思い出となった。

 アメリカでは結局、約4年を過ごした。その間、赴任を命じた上司二人には公私にわたりお世話になった。正月には赴任者家族で餅つきでもしたらと、日本から臼と杵を送ってくださった。心温まる後方支援に赴任者一同大いに喜んだ。その一方で、赴任中に義父が逝去するという寂しい体験もしたが、アメリカでの生活は私にとっても、私の家族にとってもかけがえのない経験となった。今、あの海外赴任命令を「青天の霹靂でした」などと言おうものなら、また「君、失礼だろ!」と叱られそうであるが、あの時が私のターニングポイントになったことは間違いない。

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「「決める」ということ~決断と断念は等価の関係」の著者

中鉢 良治

中鉢 良治(ちゅうばち・りょうじ)

産業技術総合研究所理事長

1977年、東北大学大学院工学研究科博士課程修了。同年、ソニー入社。2005年、同社取締役代表執行役社長に就任。2013年より現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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