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もう少しだ、頑張れ!もう少し、頑張る!

2017年3月21日(火)

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苦しい「今」は続かない

 誰でも壮年期と言われる年代になると、それまで元気だった親が次第に老いていき、子どもがいれば、その教育も大事な時期を迎える。そして自分達はというと、将来が見えないまま目前の仕事に追われている。壮年期になると、これら3世代の不安が同時にやってくる。このような「多重不安」に遭遇すれば、たいていの人はパニックに陥る。これを救うためなのか、世の中には「厄年」という言い伝えがある。災難が訪れる年齢を予め男女別に定めておき、災難への注意を喚起するという習わしである。私の場合の大厄は、この三世代の多重不安がやってくる年齢と重なってしまった。「厄年」の言い伝えは、先人たちが蓄積したビッグデータから得た生きるための知恵なのだと思う。

 現実にこの多重不安と格闘している人たちがいたら、少しでも励ましてあげたいものだと思い、産業技術総合研究所の職員向けブログで「もう少しだ!頑張れ!」と題する激励メッセージを送ったことがある。ところが、これを読んだ読者の1人から、介護や子育てなどでギリギリの苦闘をしている人に向かって「もう少しだ!頑張れ!」はないだろう、理事長は分かっていないとお叱りを受けてしまった。迂闊だったなと反省をしたのだが、「今は続かない」というのは私の経験から得た率直な実感である。

 私は以前、色紙に何か言葉をと求められた時、よく「楽しい 苦しい 苦しい 楽しい」という言葉を書いた。「苦中楽あり 楽中苦あり」を口語的に言い替えたものである。現実は、人生苦もありゃ楽もあるさ、というような決して単純なものでなく、苦しい「けど」楽しいとか、苦しい「から」楽しいという一面もあるはずである。一方、先人達は、基本的には人生は苦しいことだと考えた。確かに会社勤めにせよ研究活動にせよ、その渦中では苦しいことが多い。それでも、来し方を振り返ってみれば、存外「楽しかった」と思えることがあるものである。

 誰の作かは忘れてしまったのだが、「苦しいけど楽しい山のぼり」という言葉も色紙によく書いた。後になって「苦しいから楽しい山のぼり」とも書いた。原作は「けど」だったのか「から」だったのか定かではないが、どちらも味わい深い。あのころを乗り越えて今があり、それはみんな通る道である。さまざまな苦に直面しながらも、みんな平然と生きている。例えば電車の中の隣の人も、電車を降りて道を歩いている人も、レストランで食事をしている人も、寄席で落語を聞いている人も、みんなそれぞれの苦を抱えながら生きている。「今」はそういつまでも続くものではないことを、実はみなが知っているのかもしれないとも思ってしまう。

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「中鉢良治の「人在りて、想い有り」」のバックナンバー

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「もう少しだ、頑張れ!もう少し、頑張る!」の著者

中鉢 良治

中鉢 良治(ちゅうばち・りょうじ)

産業技術総合研究所理事長

1977年、東北大学大学院工学研究科博士課程修了。同年、ソニー入社。2005年、同社取締役代表執行役社長に就任。2013年より現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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