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日本人のセンスと教養を破壊した意外な犯人

対談 隈研吾×茂木健一郎(2)

2016年6月13日(月)

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本来、日本の木造建築は、ダメになったところを改修しながら長く使うことが前提。日本人はそれをいつしか忘れてしまい、新築志向、空き家急増の事態となった。日本人のセンスを破壊した犯人は何なのか? 高層マンションを嫌うイギリス人との対比から探ります。

(前回から読む

茂木:日本建築は、法隆寺にしても、正倉院にしても、もともと改修が前提ですよね。改修し、手入れしながら長く使う。逆に言うと、実はそれだけ長く持つというのが、日本の木造建築の特徴だと思うのですが、そのDNAをなぜか、僕たちは忘れてきてしまった。

:日本建築というものは、竣工したときが終わりではなくて、ある意味で永遠に続いていくもの。その永続性をいちばん保てるのが、実は木という材料で、逆にいちばん保てないのがコンクリートなんです。コンクリートは部分を取り替えることができないので、改修が必要となったら、全部潰しちゃうしかないのですが、木造ですと、柱とか梁とか、部分を取り替えることで、また使い続けることができます。

茂木:木材の材質自体の加工方法とか、耐火性の向上とか、そういう技術的な進化はあるんですか。

:そこには時代の追い風が吹いていて、この20年の間に木材の不燃化や防腐など、技術面はすごく進化したんですよ。木材は空気中の二酸化炭素を木の中に固定することができるので、地球温暖化に対する強い防止策になります。世界の建築家の関心は木材にワーッと集まっているんです。

隈研吾(くま・けんご)
1954年、横浜市生まれ。1979年、東京大学工学部建築学科大学院修了。米コロンビア大学客員研究員を経て、隈研吾建築都市設計事務所主宰。2009年より東京大学教授。(写真:鈴木愛子、以下同)

茂木:日本はそういう技術に関してはすごいですものね。

:でも、今は特にヨーロッパがそういう木材の技術をどんどん開発していて、木材先進国である日本が、逆に遅れをとっている状況です。

茂木:え、それはまずい。

:とはいえ、国内の技術ももちろん進んでいるし、世界的に木材への追い風がありますから、ぼくも新国立競技場で木を中心にした提案ができたわけです。追い風がなかったら、いくら「木が感じいいです」と言っても、大規模スタジアムに木を使う提案は、受け入れられなかったでしょう。ですから、あらゆる意味でちょうどいいタイミングだったと思います。

茂木:僕も子供のころに住んでいた家は木造でした。とりわけ縁側がすごく好きでしたね。縁側みたいな空間の使い方は、日本の風土に合っていますし、何よりも今のせわしない時代にあっては、いちばん贅沢な感じがします。確かに木造の家は手間がかかるのですが、命にいちばん近く、人間の脳もいちばん安らぎを感じる素材ですね。

:やっぱりそうなんですね。

「マンション文化」が日本人のセンスを破壊した

茂木:木材の持つ継続性は、脳にいい。作家の保坂和志さんが、『カンバセイション・ピース』(2003年、新潮社)という小説にも書いていますが、家屋には人々が代々住んできた記憶が残るし、それが人の心を豊かにする。ただ、その豊かさを我々は忘れちゃっているのかな。従来の日本の木造住宅が、どんどんとマンションに変わっていく過程で、今、僕が言ったような住まいの記憶や、そういうものが持っている豊かさ、贅沢さが、日本人から切り離されてしまった。そのことは日本人にとって、非常に不幸なことですよね。

:その意味で言うと、コンクリートの「マンション文化」というものが、日本人のセンスを破壊したと、ぼくは思っています。

茂木:ああ……。僕自身もマンション住まいなので、大きなことは言えないのですが、日本人は集合住宅を作る過程で、自分たちが受け継いできた木造空間の価値を失ってしまった感がありますね。隙あらば、いたるところに建てられる売り逃げ的なマンションを見ると、驚くべきかな、日本人の教養のなさ、と感じてしまいます。

:マンションって、一戸一戸の間口を最小限にして、ユニットを最大限に詰め込んで、売り主の利益を見込むわけです。狭い間口ですが、一定の間取りを確保して、仕上げに大理石を貼ったりして、高級マンションだよ、という見せかけを作る。そういったテクスチュアマッピングみたいな手口で、質が伴っていない空間を高級だと思わせることを、マンション業界がやってきた。そのビジネスによって、日本人の教養の一部は破壊されたとぼくも思います。

茂木:僕はケンブリッジ大学に2年間留学していたこともあって、イギリスと縁が深く、今でも毎年行っているのですが、イギリスの伝統的なライフスタイルは、「ロンドンと田舎」の二拠点なんですよね。ロンドンではフラットという集合住宅に住んで、田舎では古い一軒家を受け継いで、大切に使い続ける。イギリスの旅館も、昔の古い建物を改修して使っていることが多いんです。オーナーに聞くと、「最初、空き家だった家に入ったときはクモの巣だらけで、一時期はニワトリ小屋として使われてもいたから糞だらけで大変だったのよ」なんて言うのですが、そういう場所を1年くらいかけてきれいに改修して、高級なB&B(ベッド・アンド・ブレックファスト)として運用する。手間をかけると、価値の高いものが生まれるという哲学が国民の間で共有されています。

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「日本人のセンスと教養を破壊した意外な犯人」の著者

隈 研吾

隈 研吾(くま・けんご)

建築家

1954年、横浜市生まれ。東京大学工学部建築学科大学院修了。米コロンビア大学客員研究員を経て、隈研吾建築都市設計事務所主宰。2009年より東京大学教授。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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