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「カッコ悪くていいじゃないですか!」

相模屋食料・鳥越淳司社長(最終回)

2016年10月24日(月)

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 「鉛筆をなめなめつくったようなものです。おとうふに関しては精通していましたが、金融機関の方に提出する事業計画書づくりに自信はありません(笑)。もし書面だけなら『貸せない』と言われていたかもしれませんね。ただ必死で熱意を訴え、金融機関の方に『地銀の役割は、こういう、出てきた芽を応援することではないか』と認めてもらえたんです」(関連記事はこちら→「“ザクとうふ”の相模屋は、なぜ年商以上の融資を受けられたのか?」)

 次は機械だ。アツアツのおとうふがつくられているため湿度が高く、鳥越いわく、ラインからは「水もワチャワチャ出ます」。精密機械には厳しい環境だったため、ロボットのメーカーには「できない」と言われた。おとうふを入れるパックも、ラインに適合したものがつくろうとしたら非常に薄くなって、パックメーカーの担当者に「我々の常識にはない」と言われた。鳥越は苦笑する。

 「四方八方から『できない、できない』の大合唱ですよ」

 しかし鳥越にしてみれば「できないことをやんなきゃいけない」わけで、そもそも「できない」と言う側とは感覚が異なる。鳥越は、時にはみずからも機械やパックのメーカーに「こうすればできるのでは?」と提案し、改良を重ねてもらった。

 ついに第三工場が稼働しても、今度は商品を仕入れる生協の仕入れ担当者からの強烈な叱責が待っていた。生協は厳しい品質管理体制を敷いており、相模屋からおとうふを仕入れるにあたって、わざわざ担当者が幾度も第三工場に来て、指導をしてくれた。

「できないことだらけ」の経営者だった

 「生協さんと取引するということは、いわば、飛行機のパイロットになったようなものです。事故は絶対に起こせません。『これくらいならいいだろ』は絶対に許されないのです。仮に工場内での服装が少し乱れていれば『髪が入る原因になる』と捉えられます。機械の洗浄だって、隅の隅に少しでも洗浄し残しがあれば『これがもとで大事故が起こる』とお考えになります。想像以上の厳しさでした」

 生協の担当者に、強い口調で怒られた。「あなたたちのレベルで この巨大な工場の管理は絶対にできません。あなたたちがこれから取り組む第三工場、その規模と生産責任を本当に理解しているんですか!」と言われた。また、生協にトラブルを報告する時、叱責が怖く、事前に報告のリハーサルを行ったこともあった。すると生協側の担当者に「練習したでしょ? そんなことをしているヒマがあったら1つでも不具合を直して下さい!」と子どもを叱るように言われた。修正した箇所は、通算3000カ所にものぼった。

 そう、実を言うと鳥越は「できないことだらけ」だったのだ。

 ただし、これははからずも、「最初からできる人」など誰もいないことを示してはいないだろうか?

 誰もが、自分は頼りないことを知っている。鳥越も同じだったろう。第1回で書いたように、ファッションショーで女性向け商品をPRするなど、鳥越に経験も自信もあろうはずがない。世界的企業の不二製油と関係を持つことも同じだ。鳥越に聞けば……。

 「第三工場も同じで、土地を買った時、まだ様々なロボットメーカーの技術を調べていたくらいですよ(笑)」

 ではなぜ? 失敗するのは恐ろしい。否定されるのは何よりつらい。なのになぜ、鳥越はできると考え、やろうとするのか?

コメント2件コメント/レビュー

出来る前に止めるから出来ない。どんなこともできるまでやり抜けば出来る。確かにそうなのですが、スタートの案件で、いつまでもやっていたら、それは失敗ではないが、経済的には成功と言えない。リソースに限りある中で、いかに事業的に「成功」させるか、が命題であって、そこには成功の見込みをあらかじめ立てる事も含まれる。やってみて考えるにしろ、そうしたやり方でも成功できると言う読みがまずあり、実際成功したわけですから、その中身をひも解かないと、参考にならないじゃないですか!行き当たりばったりでも成功できるだけの要素がそこにあるはずですよね。じゃなければ失敗する人がいる事がおかしいと言う事になりませんか。(2016/10/24 14:51)

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「「カッコ悪くていいじゃないですか!」」の著者

夏目 幸明

夏目 幸明(なつめ・ゆきあき)

企業ジャーナリスト

1972年生まれ。愛知県出身。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、ビジネス系の記事を中心に経済ジャーナリストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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いただいたコメント

出来る前に止めるから出来ない。どんなこともできるまでやり抜けば出来る。確かにそうなのですが、スタートの案件で、いつまでもやっていたら、それは失敗ではないが、経済的には成功と言えない。リソースに限りある中で、いかに事業的に「成功」させるか、が命題であって、そこには成功の見込みをあらかじめ立てる事も含まれる。やってみて考えるにしろ、そうしたやり方でも成功できると言う読みがまずあり、実際成功したわけですから、その中身をひも解かないと、参考にならないじゃないですか!行き当たりばったりでも成功できるだけの要素がそこにあるはずですよね。じゃなければ失敗する人がいる事がおかしいと言う事になりませんか。(2016/10/24 14:51)

▼ 何かモノを立ち上げる時って、そんな感じですよね。特に全く新しい物であれば尚更、諦めない強さが必要だと思います。▼ 相模屋のこの取り組みに関しては素晴らしいし他の企業の範ともなり得るものだとは思いますが、ここであの電通の事件を考えてみると、少しだけ複雑な気持ちになります。「できるかできないかなんて、やってから考えればいいんですよ。… 必死でやって、やりながら『できること』に変えていけばいいじゃないですか」ーーこの言葉は、それが出来たから言えている、ということを忘れてはいけないと考えます。▼ 新規プロジェクトの立ち上げ時は、しばしば長時間労働に陥ります。当然肉体的にも精神的にもついていけない人が出てくる。そのような人に対し、どう接していくか。また、この言葉を信じて仕事を進めてみたものの、どうにも上手く行かなそうだという時、メンバー(または部下)に対し仕事への想いを共有できるか、押し付けてしまうのか。または撤退する勇気を持てるかどうか。▼ 彼女を襲った悲劇を繰り返さないためにも、よくよく考えて行動しなければならないと強く思う次第です。その困難、自分なら乗り越えられても他人が乗り越えられるとは限らない訳ですから。▼ そして、おとうふ屋さんのこの言葉、教訓にはすれど金科玉条にしてはいけない、と考えています。(2016/10/24 10:23)

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