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「シン・ゴジラ」と片岡球子「富士」

この絵が首相官邸に飾られた理由を読む

2016年9月8日(木)

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日経ビジネスオンラインでは、各界のキーパーソンや人気連載陣に「シン・ゴジラ」を読み解いてもらうキャンペーン「「シン・ゴジラ」、私はこう読む」を展開しています。
※この記事には映画「シン・ゴジラ」の内容に関する記述が含まれています。

 「シン・ゴジラ」の中に出てくる首相官邸と思しき部屋の壁に掛けられている1枚の絵が話題になっている。日本画家の片岡球子(1905~2008年)が描いた富士山の絵が登場するのだ。

 時代劇では、太い松の木を描いた襖絵などのセットをしばしば目にする。だが、たいていの場合、描いた絵師の個人名までは想像が及ばない。幕府や大名家に仕えた御用絵師の狩野派っぽければ雰囲気は作れるので、それでいいといったところではないだろうか。ところが、「シン・ゴジラ」に出てくる富士山の絵が片岡球子の絵であることは、この画家のことをちょっと知っている人であればピンとくる。

 1978年以来、東京・池袋のサンシャインシティ地下1階のメインエントランスに片岡球子が原画を描いた富士山の陶板壁画があった(今年1月、同じサンシャインシティ内の西街区1階の表正面に移設されたとのこと)ので、そちらで図柄に親しんだ人も多いだろう。

 企業の社長室などに絵が掛かっているのはよくあることだ。もちろん社長が美術好きの場合もあるだろうが、一般的には絵の1枚もかかっていたほうが雰囲気がよくなると考えているからだろう。お偉方が集う首相官邸も同じような空間である。そうした意味で、「シン・ゴジラ」の首相官邸に絵がかかっているのは、極めてありえる光景を再現したと考えていい。

なぜ富士山なのか

 しかしそこに、たとえばムンクの《叫び》のような、病的な表現をした絵を持ってくるわけには、普通はいかない。ピカソの《泣く女》もあまり似つかわしいとは言えないだろう。その点、富士山の絵は素晴らしい。まず山自体が美しい。東海道新幹線に乗って富士山が見える場所を走っているとき、あるいは飛行機で富士山上空を飛んでいるときにスマートフォンやデジタルカメラで写真を撮ってSNSで披露する人は、筆者の周りにも多い。外国人の旅行客がカメラを向けている光景も時々目にする。

 「富士山は日本を象徴する存在」という捉え方に異論がある人も、あまりいないだろう。「霊峰」という言葉で修飾されることもある。葛飾北斎が描いた赤富士(《冨嶽三十六景 凱風快晴》)は世界的に有名だ。1940年、横山大観は、富士山の絵10枚を含む「海山十題」(全20点)というシリーズを完売した売り上げ50万円を陸海軍に寄付した。

 ほかにも前田青邨、横山操、梅原龍三郎などそうそうたる画家たちがたくさんの富士山を描いている。日本では美術品の売買は盛んだとは言いがたいのだが、富士山は昔から市場でも一定のニーズがある画題だった。

 近年は世界文化遺産にもなり、富士山の“格”は以前よりさらに上がっている。こう考えていくと、首相官邸に富士山の絵があるのは当たり前、あるいは理想的な姿にも思えてくる。

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「「シン・ゴジラ」と片岡球子「富士」」の著者

小川 敦生

小川 敦生(おがわ・あつお)

多摩美術大学美術学部芸術学科教授

日経マグロウヒル社(現・日経BP社)入社後、日経アート編集長や同社編集委員を経て、日本経済新聞社文化部へ。美術担当記者として多くの記事を執筆。2012年4月から現職。専門は美術ジャーナリズム論。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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