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シン・ゴジラに漂う「別世界感」の正体

文芸評論家・加藤典洋氏に聞く(前編)

2016年9月14日(水)

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日経ビジネスオンラインでは、各界のキーパーソンや人気連載陣に「シン・ゴジラ」を読み解いてもらうキャンペーン「「シン・ゴジラ」、私はこう読む」を展開しています。
※この記事には映画「シン・ゴジラ」の内容に関する記述が含まれています。

 1954年の第1作から数えると、「シン・ゴジラ」は日本で制作される29番目のゴジラ映画だ。ただし、前作の公開は2004年。同作のタイトル「ゴジラFINAL WARS」からもわかる通り、ゴジラシリーズは50年を区切りに制作が打ち切られていたはずだった。それではなぜ、ゴジラは再び日本にやってきたのか。『さようなら、ゴジラたち―戦後から遠く離れて』(岩波書店)の著者で、文芸評論家の加藤典洋氏に聞いた。

まずは率直な感想を教えてください。

 おもしろかった。まず公開3日後くらいに見ました。その後、文芸誌に評論を書くことになったのでお盆の近くにもう1度、映画館に足を運びましたね。

どんなところに注目しましたか?

 初代ゴジラに戻る、ということを最初から最後まで徹底したところです。ゴジラという作品を、ゼロからこの現代に作り直すとすればどうなるか。これを全身全霊で追求する、という姿勢が独創的だったと思いますね。

加藤典洋(かとう・のりひろ)
文芸評論家、早稲田大学名誉教授。1948年山形県生まれ。東京大学文学部卒。『言語表現法講義』や『敗戦後論』などで数々の文学賞を受賞。村上春樹など文学作品の分析から、戦後日本の思想・文学史までを幅広く専門とする。近著に『日の沈む国から――政治・社会論集』(岩波書店)。

 この映画のなかの世界では、誰もゴジラのことを知りません。最初に「ゴジラ」と聞いて、みんな「何だそれは」といいます。ふつう、こういう映画に出てくる「現代の日本」というのは、「いま私たちが暮らしている日本」がモデルですよね。ところが『シン・ゴジラ』ではこれまでのゴジラはなかったことになっている。さらに、むろんそこには「ゴジラ映画」も存在していない、そういう設定です。「ゴジラもゴジラ映画も存在しない架空の日本社会」。そういうありえない新しい虚構を作って、リニアモーターカーのように宙に浮かせている。

 ただ、その虚構であるはずの日本社会、たとえば東京の街並みや自衛隊の出動の様子、官僚機構の動き方などはかなり精緻に取材し、リアルに描かれています。それが余計に、私たちに一種の浮遊感を抱かせるのです。

アニメ映画を実写で見ているような世界

どんな効果があるのですか?

 私たちに、一種アニメ映画を実写で見ているような、超平面的(スーパー・フラット)な世界を作り上げるうえで効果を発揮したと思います。

 超平面的な世界というのは、簡単にいうと、出生率ゼロの世界です。つまり、内面がない、だから恋愛もない。家庭がないから、出産もない。ですから、あれだけの大事件が起きながら、主要人物たちが官僚世界の公的な場面だけで動きます。主要人物はほとんどの場面で公的な人間(官僚)としてしか行動しないし、主人公の長谷川博己もいっさい家庭的な場面を描かれません。独身なのか妻帯なのかもわからない。

主要人物は官僚世界の公的な場面だけで動くので、どこか別世界感を醸し出している。(©2016 TOHO CO.,LTD.)

 また、一対の男女が出てきても恋愛関係には発展しません。たとえば同じ国難映画でも、2015年の原田眞人監督の「日本のいちばん長い日」だと、例によって主人公格の陸軍大臣阿南惟幾の家族との話が出てくる。夫婦愛などの挿話がちょこっとアリバイのようにさしはさまれるわけだけど、『シン・ゴジラ』はそういう凡庸さからは、ほど遠い。ね、徹底しているでしょう? 彼らの抑揚のない早口言葉が、その別世界感にフィットしていました。

 人間なので、本来ならいろいろな喜怒哀楽を抱くはず。だけれど、そこからあえて深みを取り去ることで、別の新しいリアリティーを取り出すことに成功しているのです。街も人間も空も雲も同じ線で描かれる、という意味で、実にアニメ的な手法で私たちを引き込んでいると感じました。

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「シン・ゴジラに漂う「別世界感」の正体」の著者

藤村 広平

藤村 広平(ふじむら・こうへい)

日経ビジネス記者

早稲田大学国際教養学部卒業、日本経済新聞社に入社。整理部勤務、総合商社インド拠点でのインターン研修などを経て、企業報道部で自動車業界を担当。2016年春から日経ビジネス編集部。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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