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音楽から“深読み”する「シン・ゴジラ」

そして伊福部音楽が耳に残るワケ

2016年9月28日(水)

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日経ビジネスオンラインでは、各界のキーパーソンや人気連載陣に「シン・ゴジラ」を読み解いてもらうキャンペーン「「シン・ゴジラ」、私はこう読む」を展開しています。
※この記事には映画「シン・ゴジラ」の内容に関する記述が含まれています。

 映画「シン・ゴジラ」の音楽を語っていただける方として、政治学者にして音楽評論家、そして、伊福部昭氏の音楽へのこよなき愛をお持ち、ということで、アルテスパブリッシングの代表、鈴木茂さんから、片山杜秀先生をご紹介をいただきました。休日にすみません、よろしくお願いいたします。

片山杜秀先生(以下片山) よろしくお願いします。

片山 杜秀(かたやま・もりひで)氏

音楽評論家、政治思想史研究者、慶應義塾大学法学部教授。1963年生まれ。 著書に『音盤考現学』『音盤博物誌』『クラシック迷宮図書館()』『線量計と機関銃』『現代政治と現代音楽』(以上アルテスパブリッシング)、『クラシックの核心:バッハからグールドまで』(河出書房新社)、『未完のファシズム』(新潮選書)、『近代日本の右翼思想』(講談社選書メチエ)、『ゴジラと日の丸』(文藝春秋)、『国の死に方』(新潮新書)ほか、共著書多数。朝日新聞、産経新聞、「レコード芸術」、「CDジャーナル」等で音楽評を執筆。2006年、京都大学人文科学研究所から人文科学研究協会賞を、2008年、『音盤考現学』『音盤博物誌』が第18回吉田秀和賞、第30回サントリー学芸賞をそれぞれ受賞。

 さっそくなのですが、音楽はからっきしの私からの疑問といいますか、不思議だったことから。この映画の音楽は鷺巣詩郎さんが担当されたのですが、伊福部昭さんが作ったオリジナルの「ゴジラ」の曲と、鷺巣さんが作った「新世紀エヴァンゲリオン」の曲(「シン・ゴジラ」の庵野秀明総監督が作ったテレビアニメ-ション作品、初放映は1995年)からの引用が多いですよね。「別々の作品から音楽を引っ張ってきて、よくまとまるものだなあ」と思いまして。こういう例は他の映画でもあるのでしょうか。

片山 この映画の音楽には、「ゴジラ」シリーズをはじめとする東宝のSF特撮映画のために作られた伊福部昭先生の音楽そのものと、鷺巣詩郎さんの「新世紀エヴァンゲリオン」からの引用と考えてよい音楽が使われています。もちろん、オリジナル楽曲もたくさんありますが。たとえば矢口蘭堂が率いる「巨災対」チームが動き出すところに、「エヴァンゲリオン」の音楽が効果的に被って、「さあ、これから反撃だ」と思わせる。格好良かったですね。

  そうでしたね! 脳内にネルフ(「エヴァンゲリオン」に登場する、人類側の防衛組織)本部の絵が被ります。

片山 そうでしょう。知っているとそうなります。ことほどさように、音楽がイメージを喚起する力は強力です。そしてゴジラが現れれば伊福部昭のあの音楽。鳴ればたちまち、少しでも覚えている人なら記憶が増幅されますよね。

 生身の人間が普段知っている世界、たとえば、ここは白金高輪ですけれど、ここで若い男女がデートという映画なら、実のところ音楽がなくても観客はその世界に入っていけます。設定が現実的ですから。しかし、現実は三次元だけれど映画はどう頑張っても平面でしょう(最近は3Dもありますけれど)。昔は活動写真と言ったくらいで、平面がいくら動いてもリアルに見えるのには限界があります。それでも白金高輪の恋愛映画ならいいんですよ。けれどもSF映画やアニメーションなど、「虚構」と一目で分かる世界をスクリーンで見ているとなったらどうでしょう? 「こんなの、インチキじゃないか?」と思ったら、やはりインチキに見えてしまう。

“絵空事”と思わせないのが音楽の力です

片山 そこで映画音楽です。ビジュアルと台詞、効果音ではまだ足りないところを、本物に見せる役割を負っているのが、SF映画やアニメ映画の音楽なんです。「身長150メートルの怪獣が歩いています」というなら、音楽で下駄を履かせてあげないといけません。もちろん、これは「シン・ゴジラ」の映像の完成度が低いなんて言っているわけではないですよ。役割として、絵空事を補強、補完するのが映画音楽だ、ということです。SF映画やアニメ映画は他の映画に比べて音楽の比重が一般に高いでしょう。映画音楽とは「エヴァンゲリオン」的言い回しをするなら「映像補完計画」なんです。

  なるほど。

片山 今回の「シン・ゴジラ」だと「ならば、ゴジラらしい音楽を新しく作ればいい」という考え方もあるでしょうが、エコノミカルな解決方法として「みんなが“ゴジラ”だと思う音楽があるならば、それをそのまま流せばいい」ということですね。「シン・ゴジラ」はそういう音楽の使い方を徹底しています。伊福部昭の音楽を初めて聴く人にも、あの低音主体の巨大さと暴力性をイメージさせがちな音楽はゴジラらしく聞こえるでしょうし、伊福部ゴジラ音楽を既にご存知の方はそこからさまざまな旧作を連想して、「シン・ゴジラ」が脳内でほかのゴジラ映画や今までのゴジラにまつわる思い出とリンクして、勝手にイメージが連鎖してゆくでしょう。みんなが知っている音楽の引用とはそんな効果を生みます。

 大げさに言うと、映画が映画そのものの中で完結しなくなる。観客の脳内で記憶の暴走が起きるわけです。音楽からの連想からで思い出すもろもろによって、マニアックな観客は楽しむフィールドを、眼前の映画そのものから映画の外、昔観たほかのゴジラ映画や「エヴァンゲリオン」に拡げてしまう。そうなったらしめたものです。

 総監督の庵野秀明さんは、もともと「オリジナルで満たさないとイヤだ」という嗜好の方ではないですよね。むしろ、いろいろな要素のつぎはぎで面白いものを作ろう、という方だと思います。エヴァンゲリオンでも、ヘンデルのメサイア、ベートーヴェンの第九などを山場で使ってくる。クラシックでよく知られていて「既成のイメージがあるもの」を使う。

  イメージ喚起の効果を、ある意味えげつなく使うわけですね。

片山 そう考えると、この映画を題材に日経ビジネスオンラインで、こうした特集ができた理由も分かります。「シン・ゴジラ」は、記憶やイメージを喚起する膨大な要素のコラージュでできあがっています。

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「音楽から“深読み”する「シン・ゴジラ」」の著者

山中 浩之

山中 浩之(やまなか・ひろゆき)

日経ビジネス副編集長

ビジネス誌、パソコン誌などを経て2012年3月から現職。仕事のモットーは「面白くって、ためになり、(ちょっと)くだらない」“オタク”記事を書くことと、記事のタイトルを捻ること。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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