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都知事選から春画まで~パロディの沼を泳ぐ

2017年3月18日(土)

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 数年ぶりに秋山祐徳太子さんに会った。場所は東京駅の一角にある東京ステーションギャラリー。「パロディ、二重の声」展という、美術館が開くにしては少々風変わりなタイトルの展覧会の内覧会でのことだった。秋山さんは展示作品の出品者の一人だった。

「パロディ、二重の声」展会場風景(東京ステーションギャラリー)
手前にある剥製のような作品は吉村益信の《豚;Piglib》(1994年)。フランスのデザイナーによるハムの缶詰ポスターのパロディという。吉村は、赤瀬川原平、篠原有司男らとともに、60年代にネオ・ダダイズム・オルガナイザーズのメンバーとして活動していた。右奥には、フランスの画家アングルの《グランド・オダリスク》を元にした鈴木慶則の《非在のタブロー 梱包されたオダリスク》(1968年)などが見える

 美術関係者以外でも、秋山さんの名前を聞いてピンとくる人は、結構いるだろう。1970年代に東京都知事選の泡沫候補の1人として世間を賑わせた人物だからである。それも、まだ都知事に当選する前の石原慎太郎氏が、3期目の現職当選をかけていた革新統一候補の美濃部亮吉氏と争っていた頃の選挙だった。「泡沫候補」という言葉は、その頃から世間で耳目を集め始めたのではないだろうか。

 「泡沫候補」という言葉には、存在自体が本流から外れた印象がある。中でも秋山さんは「パロディ」の度合いが高い人だったように思う。この展覧会の企画を担当した東京ステーションギャラリーの成相肇学芸員が秋山さんの作品の前で開口一番に発したのは、「(作品以前に)まず名前がパロディですよね」という言葉だった。秋山さんの本名は「秋山祐徳」。アーティスト名は、かの聖徳太子をもじっているのだ。

 会場に展示されている秋山さんの作品は、商標登録されているお菓子の「グリコ」のシンボルマークを模したパフォーマンスを写真家の原榮三郎が撮った写真作品《秋山祐徳太子 ポップ・ハプニング「ダリコ」》の複製と、都知事選に立候補したときのポスター数点だった。

 前者は、女性を背負った秋山さんが、陸上競技でゴールインしているかのような「グリコ」のランナーの格好とポーズをしている様子を撮った作品である。サラリーマン時代にヘルメットとランニングパンツという出で立ちで会社に通勤することを思いついたのが、秋山さんの「ダリコ」のパフォーマンスの発端という。

原榮三郎《秋山祐徳太子 ポップ・ハプニング「ダリコ」》(1970年)展示風景

 パロディというのは普通、本物と思われてはいけない。目的は、いわゆる洒落であり、時には愛を込めたオマージュ、あるいは批判であることもあるだろう。本物と間違えられたら、どの目的も達成できない。逆に「何かがおかしい!」と思われれば、元ネタを思い出してもらえなくても成功である。

 その点、秋山さんの「ダリコ」は、一見ちょっとしたジョークに見えるのに、表現を精査するとなかなかよくできている。「グリコ」のようなイラストではなく実際の人間であること。なぜか2人で一人分のポーズをしていること。なぜか畑の上を走っていること。なぜか畑の上には飛行機のような形をした何かが見られ、非日常性をさりげなく加えていること。少なくともこんなシーンは現実にはまずないだろうと、見る人に確実に思わせる。

 試しに、お菓子の「グリコ」にこれまでそれほど馴染みがなかった21歳の大学生の息子に展覧会カタログでこの写真を見せたところ、当初はきょとんとしていた。だがやがて、「ああ、大阪のあれだ…」と思い当たる。大阪市の道頓堀川のほとりにある「グリコ」の電光看板のイメージと、頭の中で照合できたようだ。パロディが成功したことは、彼が思わず浮かべた笑みが物語っていた。

 パロディはしばしば、そのときどきに世間でよく知られているものが素材になる。つまり時代を映す。逆に時を経て見たときには記憶を掘り起こしたり、地域の片隅に残っているものを発掘したりするような役割も果たす。

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「都知事選から春画まで~パロディの沼を泳ぐ」の著者

小川 敦生

小川 敦生(おがわ・あつお)

多摩美術大学美術学部芸術学科教授

日経マグロウヒル社(現・日経BP社)入社後、日経アート編集長や同社編集委員を経て、日本経済新聞社文化部へ。美術担当記者として多くの記事を執筆。2012年4月から現職。専門は美術ジャーナリズム論。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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