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美が絵ににじみ出た江戸のオタク的学問

2016年7月30日(土)

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 野に咲く花、海中を泳ぐ魚、身の回りを飛び交う虫…生きとし生けるものの姿に人々はしばしば美を感じ、あふれるエネルギーを実感する。そうした美や生を絵に描こうとするのは、古代の洞窟壁画以来の人間の性である。

 一方、絵には博物画というジャンルがあり、動植物がよく描かれる。いわゆる図鑑に載っている類の写実的な絵だ。日本でこうした絵を描くのが盛んになったのは、江戸時代である。平安の昔から草は描いており、季節を感じさせる優美な絵画の伝統を形成していたのだが、写生に基づいた絵を、動植物の種類を意識して図鑑のように描き並べるのは、また別のことだった。

 東京・世田谷の静嘉堂文庫美術館で開催中の「江戸の博物学」展は、日本での博物学の展開を、多くの博物画を展示しつつたどった内容。前史を物語る海外からの渡来物を含めて、多くの実作品を見ることができる。

 のっけから、集大成ともいえる作品を紹介したい。幕末に刊行された《本草図譜》という書籍だ。見開きで載っている牡丹のページを見ると、一輪の花を右ページ中央に大きくでんとすえ、茎と葉の大部分が左ページに描かれている。なんとダイナミックな構図なのだろう。花びら一枚一枚のぎざぎざのふちの描写やピンクのグラデーションは極めて丁寧。花の王たる風格を感じさせる。

岩崎灌園《本草図譜》(1844年頃)展示風景

 作者の岩崎灌園は本草学者。すなわち、薬草の研究者である。医者として来日し、博物学者でもあったシーボルトとも交流があったという。さまざまな花のほか、たけのこ、大根、柿、みかんといった野菜や果物なども含めて2000種あまりの植物を、全国を歩いて写生して周った成果がこの書籍。全91冊におよび、出来上がる前から、井伊家、田安家などの大名家から予約が入る人気ぶりだったそうだ。

《本草図譜》展示風景

 まずは薬学書として有用なのだろうが、図鑑としての魅力と表現の美しさを兼ね備えていることも、人気の理由に加えてもよさそうだ。灌園は、子どもの頃から植物が好きでこの道に入ったという。やはり学者である前に相当な植物オタクだったのだろう。そして、廃墟マニアが廃墟を訪ねては魅力的な写真を撮るように、各地を歩いて好きな植物の絵を美しく描いたのではなかろうか。

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「美が絵ににじみ出た江戸のオタク的学問」の著者

小川 敦生

小川 敦生(おがわ・あつお)

多摩美術大学美術学部芸術学科教授

日経マグロウヒル社(現・日経BP社)入社後、日経アート編集長や同社編集委員を経て、日本経済新聞社文化部へ。美術担当記者として多くの記事を執筆。2012年4月から現職。専門は美術ジャーナリズム論。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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