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決定的瞬間を捉えた《受胎告知》

ヴェネツィア・ルネサンス展に行ってきた

2016年9月3日(土)

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 日本人には無宗教の人間が多く、西洋の宗教美術を理解するのは難しいと言われることがある。礼拝に行ったり聖書を読んだりせずに育った日本人がキリスト教の宗教絵画に描かれた場面の意味を深く読み取ることができるかどうか、確かに疑問に感じることもあるだろう。しかし、実は国や土地にまつわるそうした環境とは関係なく宗教美術にも結構受け入れられるケースはあるのではないか。そんな問い直しを試みたのが、この記事の趣旨である。

 あえてそんなことをテーマにしようと思い立ったのは、有無をいわさず鑑賞者をとりこにする宗教絵画の名作を、今日本で見ることができるからだ。イタリアの巨匠画家、ティツィアーノが16世紀に描いた《受胎告知》。東京・六本木の国立新美術館で開催中の「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」展で展示されており、普段はイタリア・ヴェネツィアの教会に設置されている作品だ。

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《受胎告知》
(1563~65年頃、油彩、カンヴァス、410 × 240センチ、ヴェネツィア、サン・サルヴァドール聖堂蔵)展示風景

 まずは何も考えずにこの絵を眺める。最初に訴えかけてくるのは大きさだろう。縦の長さが4メートル以上ある。床から少し上に展示されているので、上辺は5メートルくらいのところにありそうだ。間近に立つと、画面の上方は見上げなければ目に入らない。その画面上部は、天上を表現している。天上には小さな天使たちがたくさんいる。天上からハトとともに光が降っている。そのまばゆさには、特にキリスト教の信者でなくても、神々しさを感じるだろう。

際立つ光と陰の対比

 日本ではレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロに比べて知名度が劣るティツィアーノだが、そんな現状に納得できないと思わせるほど、描き方は巧みである。特に際立っているのが、光と陰の対比だ。天上から降り注ぐ光に比べると、画面右下の女性、マリアの体の辺りは結構暗く、わずかに顔や手、衣類の一部に光が当たっているにすぎない。光は今まさに降り注ぎ始めたのではないだろうか。

 人間の日常的な感覚では光は瞬時に物を照らす。だが、それは大雑把な感覚で捉えた現象にすぎない。光にも速度はある。だから、届くまでに時間はかかる。つまり、ある一瞬を捉えれば、光がいままさに届かんとしている場面も存在しうるわけだ。一方、マリアと地上で向き合っている大天使はすでに光を帯びている。これは天上の光に照らされているというよりも、大天使自身が光をもともと持っていると解釈したほうがいいかもしれない。そもそも大天使は天の一部である。

 天の光がマリアを照らそうとしている一瞬を描いたと解釈すると、天照大神をめぐる日本の神話にも通じるようで興味深い。光は神であり幸福の源であり希望である。それは特定の宗教の中にのみ存在する考え方、感じ方ではないだろう。

「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」展会場風景。
ボニファーチョ・ヴェロネーゼ《父なる神のサン・マルコ広場への顕現》(「受胎告知」三連画より)=左の作品=とジョヴァンニ・ジローラモ・サヴォルド《受胎告知》

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「決定的瞬間を捉えた《受胎告知》」の著者

小川 敦生

小川 敦生(おがわ・あつお)

多摩美術大学美術学部芸術学科教授

日経マグロウヒル社(現・日経BP社)入社後、日経アート編集長や同社編集委員を経て、日本経済新聞社文化部へ。美術担当記者として多くの記事を執筆。2012年4月から現職。専門は美術ジャーナリズム論。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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