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民話が生まれる現場がそこにあった

山形ビエンナーレを歩く

2016年9月17日(土)

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 民話はどうやって生まれるのか。そんな現場を目の当たりにできるようなアート作品に遭遇した。場所は、1916年すなわち大正期に建った山形市の旧県庁舎を再活用している山形県郷土館「文翔館」。開催中のイベント「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2016」の会場の一つである。

 旧県庁舎の議場ホールの広い空間の中に、動物が屋台あるいは台車のようなものを引いている様子を表した立体作品が6点。動物のうちの一つはなんとヘビである。体をくねらせた巨大なヘビが大きな宝石箱に車輪をつけたような台車をロープで引っ張っている。大きさの割に怖さがなく、ひょうきんな表情をしたそのヘビは、絵本から抜け出てきたかのようだった。

ミロコマチコ+EHON LABO.《あっちの目、こっちの目》展示風景(文翔館議場ホール)。山形の山と町の際で収集した話を元に制作した立体作品。ヘビのほかクマやコウモリなど6種類の動物をテーマに創作した物語に基づく作品が展示されている

 箱部分のふたの裏にはヘビがネズミを睨んだやはり絵本風の絵が描かれている。中を覗くと、そのネズミが飲み込まれ、体の中に入っていく様子を表した、ヘビの断面図もある。つまり、箱には小さな物語が描き込まれているのだ。

ヘビに引かれた車の中を覗くと、ヘビににらまれ、食べられてしまうネズミの絵が描かれていた(《あっちの目、こっちの目》)

 ならば、車のついた箱を引っ張っているこのヘビは何者なのか。しばらく考えてたどり着いた結論は、昔、公園などで子どもたちを集めて語り聞かせていた紙芝居屋のような語り手なのではないか、ということ。つまり、ヘビは場所を見つけて自分にまつわる物語を聞かせるために、箱を引っ張っているというわけだ。

 会場では、ヘビの作品の着想源となった話が作品近くに掲示されていた。読むと、山形に住む60歳の男性が、実際に目撃した光景を元にしたものであることが分かる。男性はあるとき、ヘビににらまれて動けなくなっているネズミを目にする。ネズミは金縛りにあったように本当に動けなかった。そしてヘビに飲み込まれたというのである。

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「民話が生まれる現場がそこにあった」の著者

小川 敦生

小川 敦生(おがわ・あつお)

多摩美術大学美術学部芸術学科教授

日経マグロウヒル社(現・日経BP社)入社後、日経アート編集長や同社編集委員を経て、日本経済新聞社文化部へ。美術担当記者として多くの記事を執筆。2012年4月から現職。専門は美術ジャーナリズム論。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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