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杉本博司、資本主義が生んだ廃虚を見せる

2016年10月8日(土)

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 本当に写真専門の美術館の展覧会なのか。東京都写真美術館で開かれている「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展は、そんな疑問を抱かせる。理屈っぽいことなどは気にせずに、現代美術家・杉本博司の表現を見るために展覧会を鑑賞すればいいという意見もあるだろう。ただ、カメラ機能を持つ携帯電話やスマートフォンが広く普及し、SNSなど撮った写真を他者に見せる場も増える中で、「写真」の役割を改めて考えるのにいい機会になるので、ここではあえて気にしてみたい。

「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展会場風景。3階の展示室入り口付近には「海景」シリーズがかかっている

 3階の展示室に入ると、最初の小さなスペースにこそ杉本を写真の作家として世界的に有名にした1980~90年代頃制作の「海景」シリーズの1枚がかかっていた。しかし歩を進めると、風化した板壁や錆にまみれたトタン板で囲まれた空間が広がっている。高度成長期に入る前の昭和、あるいはテレビの映像などを通じて記憶の底に蓄積されている戦前の日本を連想させた。

「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展会場風景。錆びたトタン板とぼろぼろの板壁に囲まれている

 展示されている物の大半は、いわゆる美術品ではなかった。ボロボロの作業用のつなぎだったり、今の50代以上なら記憶の底にありそうな牛乳配達用の木箱だったり。昔日本の街角でおばあさんが座って店番をしていたようなたばこ屋の店舗の実物らしいものもあった。

「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展会場風景。昭和を感じさせるたばこ屋の店先

コメント1件コメント/レビュー

この映像を見て廃墟とみる資本主義社会の一般人はいないであろう。資本主義は個人の生きやすさの追求であり、個人の欲求であるがゆえに多くはスクラップアンドビルドである。残っている遺跡は資本主義ゆえのノスタルジックを利益とする余裕である。社会主義の廃墟を見ると、個人の利益追求ではないのでスクラップとビルドは別の地域や集団の権力争いの中で別の地域に移転する。社会主義の廃墟は使い古した匂いも生活の跡もなく、権力者が作った箱としか感じない。
軍艦島も佐渡銀山もビルドはないが、庶民が懸命に生きた跡は捨てていった人が新天地にたどり着いたことを予感させる。(2016/10/09 02:03)

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「杉本博司、資本主義が生んだ廃虚を見せる」の著者

小川 敦生

小川 敦生(おがわ・あつお)

多摩美術大学美術学部芸術学科教授

日経マグロウヒル社(現・日経BP社)入社後、日経アート編集長や同社編集委員を経て、日本経済新聞社文化部へ。美術担当記者として多くの記事を執筆。2012年4月から現職。専門は美術ジャーナリズム論。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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この映像を見て廃墟とみる資本主義社会の一般人はいないであろう。資本主義は個人の生きやすさの追求であり、個人の欲求であるがゆえに多くはスクラップアンドビルドである。残っている遺跡は資本主義ゆえのノスタルジックを利益とする余裕である。社会主義の廃墟を見ると、個人の利益追求ではないのでスクラップとビルドは別の地域や集団の権力争いの中で別の地域に移転する。社会主義の廃墟は使い古した匂いも生活の跡もなく、権力者が作った箱としか感じない。
軍艦島も佐渡銀山もビルドはないが、庶民が懸命に生きた跡は捨てていった人が新天地にたどり着いたことを予感させる。(2016/10/09 02:03)

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