米中通商協議に透ける、米国の焦りと混乱

“オールキャスト”交渉が招く長期化の必然

米国側は“オールスター”で交渉に挑んだ。写真右はロス商務長官、左はムニューチン財務長官(写真:AFP/アフロ)

 先週、米中の貿易摩擦を巡る初の閣僚協議が終了した。米中の激しい応酬が繰り広げられ、具体的な進展がないまま、協議は長期化するようだ。当然の帰結だろう。

 その背景には、攻めているはずの米国側に焦りと混乱がある。

中国の狙い通りの“揺さぶり効果”

 今年に入って、米国は鉄鋼・アルミニウムでの通商拡大法232条、知的財産権での通商法301条に基づき、一方的制裁の拳を振り上げた。これを脅しに相手から譲歩を引き出すという、1980年代の常套手段を中国に対して復活した。

 これに対して中国も、自動車の輸入関税引き下げなど市場開放で歩み寄りを見せつつ、同時に報復関税で対抗措置を講じて一歩も引かない構えだ。

 巨大な国内市場というレバレッジを持ってパワーゲームができる中国は報復関税という対抗措置も強力だ。その対象とされている大豆などでは、米国内の農業関係者からトランプ政権のやり方への反発さえ生んでいる。中国の狙い通りの“揺さぶり効果”が出ているわけだ。

 80年代に日本に対して、半導体や自動車で一方的制裁を振りかざしていた時とは戦いの構図が当然違う。当時、日本は米国に安全保障を依存するだけに報復をする力もなかった。かつて日本に対米鉄鋼輸出自主規制を飲ませた成功体験を持つライトハイザー米通商代表部(USTR)代表も勝手が違うようだ。

オールキャストの米側参加者が物語るもの

 しかも、そこにトランプ政権の中国に対する2つの“ゲームプラン”が混在している。今回の閣僚会議の米国側の参加者が、オールキャストになっている理由はそこにある。

 まずはトランプ氏の頭の中はどうだろうか。今秋の中間選挙に向けて支持層にアピールできる目に見えた成果が欲しい。貿易赤字の大幅削減や自動車、金融などの市場開放といった、いわばオールドエコノミーの分野だ。これを担うのが、ムニューチン財務長官、ライトハイザーUSTR代表、ロス商務長官である。

 他方、米国議会を中心に、もっと本質的で根深い深刻な問題がある。通信などハイテク分野での技術覇権だ。中国が2015年に策定した「中国製造2025」への警戒がここ1年で議会、産業界で急激に高まっている。今回の会議直前にも中国IT大手のファーウェイとZTEからの通信機器の政府調達を禁止する大統領令を出すなど対中攻勢を強めて、交渉前に牽制球を投げている。これを担うのが、ナバロ大統領補佐官やクドロー国家経済会議委員長だ。

 この2つの混成部隊というのが、米国側のオールキャストの意味するところだ。そして今回はこれらが整理されずに、混在したまま中国側に要求をぶつけてきているのが実態である。

 全体としての対中ゲームプランの司令塔が不在で、「船頭多くして」の感が否めない。しかもワンマン経営者の前で、お互いに手柄を競い合っているだけに厄介だ。トランプ大統領が「オールスターだ」と胸を張るようなものではなく、内情はお寒い限りだ。ここにトランプ政権の構造的問題がある。

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著者プロフィール

細川 昌彦

細川 昌彦

中部大学特任教授(元・経済産業省米州課長)

1955年1月生まれ。77年東京大学法学部卒業、通商産業省入省。「東京国際映画祭」の企画立案、山形県警出向、貿易局安全保障貿易管理課長などを経て98年通商政策局米州課長。日米の通商交渉を最前線で担当した。2002年ハーバード・ビジネス・スクールAMP修了。2003年中部経済産業局長として「グレーター・ナゴヤ」構想を提唱。2004年日本貿易振興機構ニューヨーク・センター所長。2006年経済産業省退職。現在は中部大学で教鞭をとる傍ら、自治体や企業のアドバイザーを務める。

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