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鬼怒川の水害、再発を避けるには「流域思考」が必要

西に降雨帯がずれていれば首都も危機だった

  • 柳瀬 博一

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2015年9月15日(火)

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 慶応義塾大学の岸由二名誉教授には、ちょうど1年前に日経ビジネスオンラインで、広島県安佐南区でおきた線状降雨帯による豪雨と、それに伴って起きた土石流災害の解説をしていただいた(記事はこちら)。

 当時、広島の水害報道の多くは「豪雨による崖崩れであり、地質が原因」というスタンスだった。しかし岸さんは「地質ではなく、地形の問題」と指摘、狭い範囲の流域の上にずっと雨が降り続いた結果、土石流が川のように流れ出し、流路である扇状地につくられた住宅地を襲った「小流域災害」である、と分析した。

 岸さんによれば、日本の土地はほとんどどこかの河川の流域に属しているという。ということは、「一定以上の雨量を受ければ、どんな土地でも、こうした流域水害が発生する」ことを意味する。

 今回の鬼怒川の氾濫は、どう受け止めるべきなのだろうか。

(聞き手は柳瀬博一)

(写真=東阪航空サービス/アフロ)

今回の鬼怒川水害をどうご覧になりますか。

:「線状降雨帯(長時間にわたって同所に豪雨を降らせる積乱雲の帯)によって起こった水・土砂災害」という点では、昨年の広島と原理は同じです。スケールははるかに大きいですが。

 鬼怒川流域の、下流から上流にぴったり沿ったかたちで線状降雨帯が居座り続け、上流から集まった膨大な雨水で下流部の脆弱なところが決壊しました。ひとつの流域に大量の雨が長時間降り注ぎ、増水した河川の流れがオーバーフローし、破堤したわけです。

 鬼怒川の流域のかたちを地図で見てみましょう。

地図中の薄く黄色で塗られた範囲(群馬県から銚子岬付近まで)が、利根川の流域。オレンジ色の範囲が鬼怒川流域で、利根川流域の一部。黄色の矢印は線状降雨帯の移動方向(図は国土交通省鬼怒川ダム統合管理事務所のHPのものを使用させて頂きました。オリジナルはこちら)。

:オレンジ色が鬼怒川流域です。薄黄色の利根川流域の一部ですね。水害のあった常総市は鬼怒川が利根川に合流する直前の下流部に位置しています。

 鬼怒川流域は上流部が扇子状に広がっています。山間から出てきたいくつもの河川が合流し1本に収束して、下流部の流域は幅が狭くなっています。上流部に大量の雨が降り続ければ、大きな洪水の塊が流れ落ち、幅の狭い下流の流れに集中するわけです。

 薄い青で示したのは、今回、線状降雨帯に覆われた地域のイメージです。扇子状に広がった上流部に大量の雨が降り続け、下流部には雨に加えてそれらが加算されていく。濃い青の矢印で示した通りです。

上流に降った雨の水が、まとまって下流へ殺到する

細い数本の矢印が、まとまって太い矢印になっていく。

:最終的に、下流部の脆弱な箇所でオーバーフローし、堤防の破壊、大水害につながりました。広島で土石流災害があった場所も、扇子状に源流部が広がり、下流にかけて収束するかたちです。

昨年の広島県安佐南区の土石流災害発生箇所

今回の鬼怒川水害の被害拡大を防げなかったのは、なぜでしょうか?

:報道を見る限り、豪雨の予想、線状降雨帯の分析は進んでいます。しかしその一方で、実際に水害を引き起こす流域の構造と、水害の発生状況については、一部の専門家を除くと、一般市民はもちろんのこと、メディアや地方行政の理解が進んでいないと感じました。昨年の広島の水害の時点から、あまり進歩がみられない。残念なことです。

具体的には。

:豪雨は水害の条件です。実際に水害が起きるかどうか、それを規定しているのは、雨そのものではなく、大雨が降り落ち川に集まり、流れ下る「流域の構造」と、人々の「居住の構造」の相関なのです。その点に対する理解が足りない。

 豪雨の予測や分析は進んでも、なぜその土地で水害が起きるのか、どんな氾濫になり得るのか、地形に基づく理解が、報道や市民の間でなかなか進みませんね。

水害は、「流域の構造」と「居住の構造」の相関で起こる?

岸 由二(きし・ゆうじ)氏
慶応義塾大学名誉教授
1947年東京生まれ。横浜市立大学文理学部生物学科卒業、東京都立大学理学部博士課程修了。理学博士。進化生態学、流域アプローチによる都市再生論、環境教育などを専門とする。鶴見川流域、多摩三浦丘陵など首都圏のランドスケープに沿った都市再生活動の推進者としても知られる。著書に『自然へのまなざし』(紀伊國屋書店)『いのちあつまれ小網代』(木魂社)、『環境を知るとはどういうことか』(養老孟司との共著、PHPサイエンス・ワールド新書)、訳書に『利己的な遺伝子』(ドーキンス、共訳、紀伊國屋書店)、『人間の本性について』(ウィルソン、ちくま学芸文庫)、『生物多様性という名の革命』(タカーチ、監訳・解説、日経BP社)、『足もとの自然から始めよう』(ソベル、日経BP社)、『創造』(ウィルソン、紀伊國屋書店)、『「流域地図」の作り方』(ちくまプリマー新書)など多数。

コメント11件コメント/レビュー

これほど重要かつ緊急を要する記事に、つまらない政治ネタの100分の1しかコメントが付いていない事実が、なにより我が国の現状を物語っている。(2015/10/17 00:10)

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これほど重要かつ緊急を要する記事に、つまらない政治ネタの100分の1しかコメントが付いていない事実が、なにより我が国の現状を物語っている。(2015/10/17 00:10)

過去に床下浸水したことのある地域に家があります。家を建てる際には水害についてほとんど考えませんでした。低地なので大雨が降ると冠水するかも、という話はありましたが、実際にそうなるまであまり深刻に考えませんでした。いまだに津波の想定地域に家を建てる人も、住む場所を決める前に水害マップを見ようとしない人も、何十年に一度の災害より目先の資金計画や物件情報などが優先されるからでしょう。自分が何処でどういう家に住むかが、最も効果的な防災対策のはずなのですが、住宅価格や、(平時の)住環境などは良く吟味しても、災害に関しては二の次になりがちです。もし全ての人が、災害対策を重視して住居を決めていたら、南海東南海トラフ大地震の津波が想定される、太平洋岸の浜から数キロの範囲は全て無人地帯になり、崖下や造成地に住む人は無く、大都市でも湾岸地域やゼロメートル地帯などは、空き地になってしまうでしょうが、そうならないのは、防災よりも優先度の高い条件に縛られる現実があるからでしょう。防災対策を進めるには、行政の規制や指導がないと、住民の自主的な対策は進まないと思います。(2015/09/16 15:01)

流域思考は確かに合理的だが、陸上に降った雨は必ずどこかの経路を通って海に流れ込むのだから、「日本人のほぼ全てが「流域」に住んでいる」は当たり前の話ではないでしょうか?(2015/09/15 19:39)

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