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ホンダジェット、「夢」を「現実」にした挑戦者

藤野道格氏が手にした米FAAの「型式証明」

2015年12月11日(金)

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 ホンダの航空機事業子会社、ホンダ エアクラフト カンパニーは12月10日(日本時間)、米連邦航空局(FAA)から「型式証明」を取得したと発表した。型式証明は、強度や安全性などにおいて機体が適切な設計であることへの「お墨付き」だ。これまで3000時間を超す飛行試験を重ねてきたが、型式証明を取得したことで、顧客に「ホンダジェット」を納入することができるようになる。ホンダによれば、初号機の納入は2015年中の見込みだ。  「日経ビジネス」では2014年秋に、飛行試験の真っ最中だったホンダ エアクラフトの藤野道格社長を取材した。印象的だったのは、メディアなどで「本田宗一郎氏の『夢』」と形容されることが多いホンダの航空機事業について、「僕にとっては目の前の現実」と語る藤野氏の姿だった。研究開発に着手してから30年越しで型式証明、そして年内の納入というステップを着実に進めることができたのは、藤野氏の胆力に依る部分が大きいだろう。当時の取材記事を一部修正・加筆して、再掲する。
12月に型式証明を取得した「ホンダジェット」(ホンダ エアクラフト カンパニー提供)

 一番近くで顔を見たのは、会社のトイレですれ違った時だった。「飛行機の話は外ではしてはいけない」と上司に言われていたから、声は出さずに、お辞儀だけした。

 これが、ホンダ エアクラフト カンパニー社長の藤野道格が覚えている、ホンダの創業者・本田宗一郎との接点だ。具体的な年号こそあやふやだが、当時の藤野は若い技術者の1人。年の54歳離れた創業者と「飛行機談義」に花を咲かせるなんてことは、あるはずもなかった。

 そのためかもしれない。外野が「創業者の夢がかなう」とはやし立てるのとは裏腹に、藤野にとって飛行機作りはずっと「すごく現実的なものだった」。例えるならば、米ボーイングに「777X」の開発を「夢」と語る社員がいないのと同じだ。彼らが目の前の現実として新型機を作るように、藤野は「ホンダが誇れる飛行機を作ること」に、約30年間、対峙し続けてきた。

ホンダ エアクラフト カンパニー社長 藤野 道格
1960年生まれ。高校生まで青森県で育ち、東京大学工学部航空学科へ。幼い頃から設計技師になりたくて、1984年に本田技研工業に入社。86年より航空機の研究開発に携わる。2006年より現職。(写真:常盤武彦)

 夢ではなく、現実。

 藤野のこうした意識こそが、多くの人が懐疑的だったホンダの航空機開発を1つの事業に昇華させたといっても過言ではない。ホンダが基礎技術研究センターを設立し、藤野が数人のメンバーとともに航空機の研究を命じられて渡米したのは1986年。藤野はその後、97年にホンダジェットのプロジェクトリーダーになり、2006年からはホンダ エアクラフト カンパニー(ノースカロライナ州)の社長として、ホンダの航空機事業を率いている。

 30年の間にはもちろん、幾多の逆境があった。乗り越えられたのは、藤野が幼少期から抱いていた「人を驚かすモノを作りたい」という思いの力が大きい。けれど、それだけではない。相手を「現実解」で説得し、航空機の開発を押し通す胆力を藤野は持ち合わせていた。

 1つの例が、2008年のリーマンショック直後のエピソードだ。航空機事業からの撤退に傾くホンダの経営陣を説得する際、藤野は「創業者の夢」という金言に一切頼らず、「現実」を直視した。稼ぎ頭だった北米での販売不振で苦しむホンダの状況を把握したうえで、航空機のプロジェクトを継続させるための事業プランをひねり出し、開発の継続をのませた。もちろん部下には「そんなそぶりを微塵も見せなかった」(プログラムマネジャーの近藤近藤順一)。

 その姿はホンダという大企業の一部門というよりは、投資家に期待を抱かせて資金を調達するスタートアップの姿に近い。

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「ホンダジェット、「夢」を「現実」にした挑戦者」の著者

佐藤 浩実

佐藤 浩実(さとう・ひろみ)

日経ビジネス記者

日本経済新聞社で電機、機械、自動車を6年間取材。13年4月に日経ビジネスへ。引き続き製造業を担当。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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