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古びた2等車で60時間を過ごすには

2015年12月19日(土)

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7時間の時差を走り抜けるシベリア鉄道

 9月16日、ハバロフスクからイルクーツクまで60時間半、2泊3日の列車の旅が始まった。4回に分けてシベリアを横断する今回の計画の中で、最長の乗車時間である。

 乗ったのは、ウラジオストク発ノヴォクズネツク行き207列車。朝8時9分にハバロフスクを発車して、イルクーツクは翌々日の18時35分着。単純に計算すると58時間半だが、時差が2時間あるので、実質60時間半になるわけだ。

12両編成の207列車。途中にかなりの勾配があるので、機関車は重連(2両)だった。オブルチエ駅にて

 実は、シベリア鉄道の両端にあるウラジオストクとモスクワでは、時差が7時間あり、7日間で7つの時間帯を横切っていく。おおざっぱにいうと、24時間走るたびに、時計を1時間戻すことになる。

 もっとも、それでは鉄道を運行する側としては煩雑過ぎるので、シベリア鉄道の時刻はすべてモスクワ時間で管理されている。だから、ハバロフスク8時9分発の列車は、駅の時刻表では夜中の1時9分発と表示されていて、慣れないうちはひどく戸惑うのである。

比較的小さな駅にもこまめに停まるこの列車は、沿線住民の足でもあった

 妻には、「今度は2等車だから、前に乗った1等車とは違うからね」と念を押しておいた。「でもね、ロシア人と同室になるのもおもしろいかもよ」とも付け加えておいた。

 前回の旅でも、2等車ではロシア人や外国人旅行者とさまざまな交流があって、いい思い出となっている。はたして今日は、かわいい女の子がいるか、インテリのおじさんがいるか、賑やかな家族連れがいるか、うきうきしながら客車に乗り込んだのであった。

ロシアの列車で階級の格差を実感

 ところがである。客車に入ったとたん、すえたような臭いが鼻をついた。もやっとしたぬるい空気の中で、体臭と食べ物の臭いが混じり合って車内に漂っているのだ。ウラジオストク始発の列車だから、既に1晩走ってきたあとだったのである。

 しかも、隣の線路に停まっている貨物列車が朝日をさえぎっているので、車内が薄暗い。浮かれた気分は一気に吹っ飛んでしまった。

これが2等車のコンパートメント。第1回で紹介した1等車とは大違い。とくにこの列車の車両は古びていた

 私たちの寝台番号が記されたコンパートメント(個室)のドアを開けると、やけに古びた室内の様子が目に飛び込んできた。それは、34年前に乗った車両よりも、ずっと薄汚れて見えた。しかも、ひどく汗臭いのだ。

 さすがの私も一瞬たじろいだ。

 「これは牢獄だ!」

 よく見ると、上段のベッドに先客の若い男性がいた。上半身裸で、ここが汗臭さのもとだと分かった。

 「こんにちは」とロシア語であいさつすると、「んー」という声が返ってきた。

 「こりゃ、のどかな交流どころじゃないぞ!」

 私が愕然としているくらいだから、妻は前回の1等車との格差にさぞ驚いただろう。しばらくは、無言のままで買ったばかりのカメラをひたすらいじっていた。

質素な2等車の通路。壁には、この列車の時刻表が貼り出されている

 まもなく、車掌の女性がビニール袋に入ったシーツ、毛布カバー、枕カバー、スリッパ、歯磨き、タオルを配給してくれた。布団と毛布は既に置いてあるから、シーツやカバーを自分でセットするのである。1等車は、乗ったときにすべてが用意されてあったので、ここもまた大きな格差である。

コメント6

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「古びた2等車で60時間を過ごすには」の著者

二村 高史

二村 高史(ふたむら・たかし)

フリーランスライター

1956年東京生まれ。東京大学文学部卒。小学生時代から都電、国鉄、私鉄の乗り歩きに目覚め、その後も各地の鉄道を乗り歩く。現在はフリーランスの物書き。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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