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人としての尊厳回復を求めて立ち上がった人たち

ハンセン病違憲国家賠償裁判(上)

2017年5月2日(火)

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 明日5月3日は70回目を迎える憲法記念日。そこで「ハンセン病違憲国家賠償裁判」について3回のシリーズでお届けする。ハンセン病患者らの人権を侵害する「らい予防法」を放置した国の賠償責任を認めた裁判だ。

 日本では長らくハンセン病に対する誤解から、患者の隔離、さらに断種・堕胎という政策がとられてきた。しかもそれは、ハンセン病の研究が進み、特効薬など治療法が見つかったあとも続き、患者や家族を苦しめ続けた。
 差別や偏見につながった国の過ちの認定、そして何よりも、人としての尊厳回復を求めて、患者たちは立ち上がった。そして患者が語った国からの過酷な扱いは、法曹界に衝撃を与え、裁判官をも動かした。

 第1回は訴訟の提起から判決までを辿る。

抗議活動をするために所沢街道を歩く多磨全生園の入所者たちと、立ちはだかる警官隊(国立ハンセン病資料館収蔵)

 ここに1枚の写真がある。撮影されたのは1953年7月31日、場所は所沢街道のどこかとされている。手前の麦わら帽子をかぶった群衆はハンセン病国立療養施設多磨全生園(東京都東村山市)の入所者たちだ。 彼らはハンセン病療養施設の劣悪な環境の改善やさまざまな人権を無視した施策の改善を訴えるため、国会前に座り込みに行こうとしている。その向こうに見える集団は、それを押しとどめようとする警官隊である。

抗議する人々を押しとどめようとした国家の力

 私はハンセン病関係の資料を読んでいてこの写真をみつけ、大げさでなくしばらく動けなくなった。

 ハンセン病は四肢の麻痺など、患者に大きな障害を残すことがある。また入所者の多くは高齢者だ。夏の暑い盛り、不自由な身体を押して国会に向かおうとする彼・彼女らを止めるのにこれだけの警官隊が必要なのだろうか。また警官の胸に去来するのはなんだろう。ただ命令に従っただけの空白があるのか、それともこちらに向かってくる人たちの姿を見て、いくばくかの痛みを感じることもあったのか。行進する側も抑える側も、個人の想いは国家の意思という歯車にすり潰される。

 2001年5月11日、熊本地裁のある判決が日本中を震わせた。ハンセン病施設の入所者たちが求めていた国のハンセン病政策の過ちを認め、「らい予防法は人権を著しく侵害し、違憲性はあきらか」と国の敗訴を申し渡したのである。理論的に国側勝訴の予測があっただけに国の衝撃は大きく、厚生労働省の職員が速報のテレビに「なんで、なんで」とうわごとを呟きながら慌てる姿が当時の新聞で報じられている。(熊本新聞2001年5月11日)

 これから私が伝えるのは、国家の歯車に抵抗した人々と、それを見て見ぬ振りしてきた私たちの物語である。

家族と引き裂かれ、堕胎・断種を強制された患者の声

 ことのきっかけは1995年9月1日、鹿児島県にあるハンセン病療養施設星塚敬愛園に入所する島比呂志(故人)から九州弁護士会連合会(略称:九弁連)へ送られてきた一通の手紙である。

 その手紙には、「らい予防法」の廃止が目前に迫った中で、国がそれまで推し進めてきたハンセン病患者への隔離政策、事実上強制される堕胎・断種など「絶滅政策」についてなんら総括もされず、このまま曖昧なまま幕引きがされようとすることへの島の悔しさが綴られていた。そして島は

 《ただ一つ気になるのは、人権に最も深い関係を持つはずの法曹界がなんらの見解も発表せず、傍観の姿勢を続けていること》

 として、弁護士会の責任を正面から問うていた。

 九弁連は島の「告発」に飛び上がった。九弁連の人権擁護委員会準備委員でのちにハンセン病違憲国家賠償訴訟団の共同代表になる八尋光秀弁護士は、その手紙を読んだ。
 「そのような人権侵害が隔離施設で行われていたことを我々は把握してなかったですからね。それはもう、ごめんなさいというほかなかった」

 それで園まで島に会いに行った。ハンセン病療養施設は隔離施設として建てられたので、へんぴなところにある。初めて訪れた者にはのどかな空間に思えた。同行した弁護士が思わず

 「いいところですね」
 と島に言うと、
 「そうかい? 住んでみるかい?」
 と返されて弁護士らは何も言えなかった。

 「らい予防法」の改廃は既に既定路線に乗っており、いまさら九弁連が意見声明を出したところで遅きに失した感がある。だがなにもしなくていいとはならない。それで九弁連は今までの人権侵害の実態を把握するため、95年11月に星塚敬愛園(鹿児島県)と菊池恵楓園(熊本県)での現地聞き取り調査を実施した。さらに翌年96年1月には、九州に五園ある療養施設でのアンケート調査を実施した。
 回答率3割を目指したそれは、全2299名中1391通、実に6割近い回答を得た。断種・堕胎の有無に回答した人の3割が断種・堕胎を強制されていて、少なくない人が医師免許を持たない者によって手術されていた。

 またそれらに加えて、療養所の許可無く外出した場合など、「秩序を乱した」と所長が判断した場合、独房のようなところに入所者を監禁する懲罰も存在した。偽名の強要(入所すると本名を捨てさせられ、園内だけの名前を付けられた)、死体解剖などが行われていたことも判明した。

ハンセン病療養施設・多磨全生園(東京都東村山市)の納骨堂

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「人としての尊厳回復を求めて立ち上がった人たち」の著者

神田 憲行

神田 憲行(かんだ・のりゆき)

ノンフィクション・ライター

1963年、大阪市生まれ。関西大学法学部卒業。大学卒業後、ジャーナリストの故・黒田清氏の事務所に所属。独立後、ノンフィクション・ライターとして現在に至る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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