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性的少数者が憲法に問うた「家族」「幸福」の形

最高裁勝訴から考える「自分らしく生きる権利」

2016年7月13日(水)

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 性別適合手術を受け、法に沿って戸籍を男性に変更し、女性と結婚。妻が人工授精で出産した子の出生届を提出した際、「父親としては認められない」と告げられる。人工授精の子は、法的に嫡出子として認められる。ただ、性別適合手術を受けた父親の前例はなかった。「認められない」とされた理由はその1点のみ。子どもの戸籍は、父親の名前が空欄となった。

 父親は訴えを起こすも、一審・二審ともに敗訴。しかし、最高裁で「僅差」の逆転勝訴を勝ち取る。実は、日本国憲法で、家族に関して触れられているのは24条のみ。「家族」は、婚外子の相続や同性婚などの問題でも知られるように、立法的な対応が最も遅れている分野の一つである。憲法に照らしながら、家族の問題に思いをはせる。それは、「自分らしく生きる権利」を考えることと同義なのである。

「インタビューは公園がいいですね」

「いやでもプライベートなことまで伺いたいので、どこか人の耳がないところの方がよくありませんか」

「大丈夫です。僕はそういうのを気にしません。むしろ公園の方が子どもたちを遊ばせておけるので都合がいいんです」

 待ち合わせに車で現れた前田良(活動名)はダイビングが趣味というだけあって、背は高くないががっちりした体つきをしていた。前田の運転する車に乗り込み、前田の妻、2人の子どもらとともに近くの小さな公園に向かう。ベンチで前田と並んで話し込んでいると、たまに子どもがやってきて、前田にまとわりつく。頭を撫でたり、微笑んだり、どこの日曜日の公園でも繰り広げられているごく普通の家族の休日である。

前田家。いまは次男も生まれて、小さな男の子ふたり、毎日を賑やかに過ごしている

 だが国は、この親子関係を3年近く認めなかった。

 前田が自分の身体に違和感を持つようになったのは幼稚園のころからである。ふだんは男の子と一緒に遊んでいるのに、グループ分けで自分が「女の子」に入れられるたびに「なんで」と疑問を持った。

 小学校高学年から胸が膨らみはじめると、自分の身体に嫌悪感を募らせた。

「隠したくてしょうがない。こんなこと言ってはいけないんですが、病気になったり事故に遭えば胸を手術で取れるんじゃないかと思い詰めたこともあります」(前田)

 そのころ、ドラマ「金八先生」で上戸彩が性同一性障害の生徒役をやってるのをみて、「自分はこれだ」と初めてわかった。だが、自分の心と身体が引き裂かれるような苦しみを誰にも相談できなかった。高校を出て就職するが、スカートとストッキングの制服に我慢できず、半年で退職した。

「前田さんを父親として認めることはできません」

 初めて自分の苦しみを他人に告白したのは20歳のときだ。初めて好きになった女性に伝えると、彼女は前田の苦しみを理解してくれ、同じ性同一性障害の知人を紹介してくれた。

「その人から男性ホルモンの注射のことを知りました。すぐ射ちたいと思いました」

 2008年、前田は今の妻と知り合い、性別適合手術を受けた。「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」3条に基づき、戸籍が男性に変更になり、結婚した。この手術を前田は「性別を元に戻す」と表現する。私たちはつい「女性から男性に性転換」と言ってしまいがちだが、前田からすると自分は男なのに女性の身体をしていることがおかしいのであって、手術はそれを「元通りにすること」に他ならないのだ。

「大事な人を守ろうとするとき、一緒に住んでいるだけじゃ十分じゃないんです。結婚して入籍して、彼女に責任を持ちたかった」

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「性的少数者が憲法に問うた「家族」「幸福」の形」の著者

神田 憲行

神田 憲行(かんだ・のりゆき)

ノンフィクション・ライター

1963年、大阪市生まれ。関西大学法学部卒業。大学卒業後、ジャーナリストの故・黒田清氏の事務所に所属。独立後、ノンフィクション・ライターとして現在に至る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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檜山 敦 東京大学先端科学技術研究センター 講師