米国務長官演説は「ハル・ノート」だ

ティラーソン発言を誤報し続けた世界のメディア

  • 鈴置 高史
  • 2017年12月28日
12月15日、国連安保理の閣僚級会合でティラーソン国務長官は「対話するには、まず北朝鮮が挑発をやめる必要がある」と従来の発言を繰り返した(UPI/アフロ)

前回から読む)

 米朝関係は「ハル・ノート」の段階に至った。

初回は無条件で

「米国が北朝鮮と対話に乗り出した」と思っていました。

鈴置:そう勘違いしている人がけっこういます。ティラーソン(Rex Tillerson)国務長官のアトランティック・カウンシル(Atlantic Council)での演説がきっかけです。

 前回にも引用しましたが、世界中のメディアがこの演説を誤読して「米国が対話路線に転換か」と報じました。それが完全な誤りだったのです。

 この演説をきちんと読んだ安全保障専門家は「路線変更などしていない」と受け取りました。対話路線どころか、最後通牒と見なした専門家もいました。

 ティラーソン国務長官は「初めの会談は前提条件なしに会おう」(we’re ready to have the first meeting without precondition. )と語ったに過ぎません。

 繰り返しますと、前提条件なしに会うと言っているのは「初めの会談」(the first meeting)だけなのです。というのに、多くのメディアがそこを無視して「北朝鮮が核放棄に動かない限り対話しないと言っていた米国が、突然に方針を変えた」と報じたのです。

重箱の隅をつつく

 発言の翌12月13日の国務省の報道官会見が象徴的でした。ナウアート(Heather Nauert)報道官は「政策は変えていない」と繰り返しました。実際、そうだからです。

 しかし記者は「長官は『条件なしに会う(without precondition)』と言ったではないか」と、この部分だけを取り上げて――重箱の隅をつついて、執拗に報道官を追及したのです。

 米国は「核をカネで買う」案を北朝鮮に非公式に提示している模様です(「2018年『北の核』は軍事攻撃か体制崩壊で決着」参照)。

 それを正式に伝えるのも、あるいはその答えを聞くのも、電話やメールというわけにはいかない。当然「前提条件なしに北朝鮮のしかるべき人と会った席で」という段取りになるわけです。

 もちろん、米国の従来の方針である「北朝鮮の核の完全廃棄」は堅持したままです。ティラーソン長官は演説で「完全かつ検証可能な非核化が目標だ」とちゃんと述べています。原文は以下です。

  • Our policy with respect to the DPRK is really quite clear, and that is the complete and verifiable denuclearization of the Korean Peninsula.

 同長官は武力で脅すことも忘れませんでした。「対話が上手くいかなければ、マチス国防長官が上手くやることになる」とも語っています。

  • I’m going to be confident that we’re going to be successful, but I’m also confident Secretary Mattis will be successful if it ends up being his turn.

続きを読む ※日経IDログインが必要な場合があります