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「依存症で失ったもの」は治療で取り戻せる

国立精神・神経医療研究センター 薬物依存症 松本俊彦(4)

2017年6月3日(土)

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覚せい剤をはじめ、違法な薬物の事件報道が時おり世間を騒がせる一方で、薬物依存症は治療が必要な病気でもある。それはギャンブル依存症などでも変わらない。では、依存症はどんな病気で、どんな人がなりやすく、どうやって治すのだろうか。日本における薬物依存症の治療と研究のパイオニアである松本俊彦先生の研究室に行ってみた!(文=川端裕人、写真=内海裕之)

 依存症を治療する医師になったものの、松本さんは、当初「いやいや」だった。しかし、「人間の一番人間らしいところをグロテスクに集めた病気」であることに気づいた頃から、むしろ、引き寄せられていったという。やがて、日本ではじめて薬物依存症に特化した治療プログラムを開発するに至るわけだが、一筋縄ではいかなかった。

3カ月で7割

「3カ月で7割もドロップアウトさせて、どこが専門病院なんだと思ったんです」と過去の自分を自嘲した松本さん。

「前にいた神奈川県の専門病院に赴任した当初、私、半泣きで診療していたと思うんです。だって、治療と言ってもどうやっていいのかわからない。覚せい剤が嫌いになる薬があったらいいのにとか思いましたが、そんなものない。せいぜい薬物の恐ろしさを説教するとか、認知症の人の脳の画像を見せて、長年、覚せい剤を使うとこうなるぞと、詐欺みたいな説明までして、それでも効果が出ない。そこで、予後調査をしてみたんです。その病院で、覚せい剤依存症の人が、初診からわずか3カ月後にどのくらい通院を続けているか。3カ月で治療の効果なんて判定できないんですけど、そもそも治療を続けているかどうか。そうしたらね、3割だけなんです。7割がもう通院をやめてたんです。無理ないですよね。週に1回早起きをして、交通機関を乗り継いで、長い時間待って、金を払って、説教を受ける。これが楽しみでたまらないと思って通うやつがいたらおかしいです」

 これは衝撃的な数字だ。非常に低いと言わざるをえない。治療を求めてきた人が、特に快癒したわけでもなく7割方来なくなる、とは……。

「実は、薬物依存の患者さんがはじめて病院に来るのって、ほとんど家族やまわりの人が、保健師さんや弁護士さんに相談したりして、本当に苦労して、説得して、はじめて専門病院の外来に来ているんです。それなのに3カ月で7割をドロップアウトさせるんじゃ、どこが専門病院なんだと思いました。逆に3カ月続いていた3割の人たちって、要するに幸運にも、その期間、使わずに済んでいる人が自慢しに来てるんですよね。褒めてもらいたくて。こっちも褒めますし。その調査でも、3カ月続いた人たちの96%は薬を使っていませんでした。これ、短期間とはいえすごくいい数字です。その一方で、途中で使ってしまった人は、情けなくて、かっこ悪くて、あるいは医者から怒られるんじゃないか、通報されるんじゃないかと思って、通院をやめちゃってるんですよ。でも、我々専門医が対応しなきゃいけないのは、わずか3カ月もやめることができずに病院にこなくなっちゃった人たちの方ですよね」

「研究室に行ってみた」のバックナンバー

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「「依存症で失ったもの」は治療で取り戻せる」の著者

川端 裕人

川端 裕人(かわばた・ひろと)

文筆家

1964年、兵庫県明石市生まれの千葉育ち。日本テレビの記者を経て作家に。『夏のロケット』が第15回サントリーミステリー大賞優秀作品賞、「SFマガジン」で「青い海の宇宙港」を連載中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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