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「昆虫少年」が「モグラ博士」になるまで

国立科学博物館 哺乳類分類学 川田伸一郎(3)

2015年9月19日(土)

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わたしたちにはとても身近な存在なのに、その素性となるとほとんど知られていないモグラ。この有名だけれど謎に満ちた哺乳類を研究する「モグラ博士」として知られると同時に、自称「標本バカ」というほど標本にも魅せられた川田伸一郎さんの研究室へ行ってみた!

(文=川端裕人、写真=的野弘路)

 国立科学博物館の川田さんの研究者としての出発点は、染色体の研究だ。

 染色体とは、細胞の核の中にある糸状のもので、遺伝子がそこにのっかっている。人間だと両親に由来するものが23本ずつ、計46本ある。この数は生き物によっていろいろだ。

始まりは染色体

 瀬戸内の岡山県に生まれ、幼い頃、いわゆる「昆虫少年」だった川田さんは、青森県にある弘前大学理学部生物学科に入学して、哺乳類の染色体研究に出会った。学部学生の頃は、ヒメヤチネズミというネズミの染色体を研究したそうだが、大学院の修士課程で「モグラ」に転身する。

「日本にいるモグラ科の生き物で、ヒミズ亜科というのがあって、ヒミズとヒメヒミズの2種がいます。これらの染色体がこれまであまり研究されていなかったということで、大学の先生から、研究してはどうかと言われました。実は学部学生時代に、フィールドでヒミズを捕まえたことがあって、ネズミに似ているのに、もっと機敏だし、面白い生き物だと思っていました。それで、その研究をしてみようと思ったんです」

 ヒミズは、モグラの仲間とはいっても、地下にトンネルは作らない。森に住み、林床に溝のようなものを作って移動する、ちょっと変わった「モグラ」だ。日本には前述の2種類いる。それらの染色体を見るためには、まず川田さんはフィールドに出なければならなかった。

ヒミズの標本(仮剥製)。

「染色体を見るには、できるだけ新鮮な細胞を培養しなければならないんです。でも、モグラ科の生き物って、お腹が空くとすぐに死んでしまうので、罠をしかけたら、朝・夕・深夜と3回、見に行く必要がありました。朝6時には当時住んでいた寮を出て、自転車1時間かけてフィールドまで行って、捕まえたヒミズを大学の研究室まで運び、もう死んでしまっている場合はそのまますぐに組織培養までやってしまいます。それから寮にもどってやっと朝食。そのあと、夕方と深夜にもまた……」

 相当ハードな生活だったようだ。そのかいあって、ヒミズとヒメヒミズの染色体を得て、修士の研究をまとめることができた。ヒミズ科2種の間の染色体でどのような構造変化があるのか、はじめて具体的に明らかにしたのが成果だ。

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「「昆虫少年」が「モグラ博士」になるまで」の著者

川端 裕人

川端 裕人(かわばた・ひろと)

文筆家

1964年、兵庫県明石市生まれの千葉育ち。日本テレビの記者を経て作家に。『夏のロケット』が第15回サントリーミステリー大賞優秀作品賞、「SFマガジン」で「青い海の宇宙港」を連載中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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