トランプ流は外交の教科書に失敗事例として載る

「この会談はやらないほうがよかった」

 元外交官で外交交渉に精通している宮家邦彦氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)は、米朝首脳会談における米国の交渉術を「稚拙」と評価する。例えば「切り札を最初に切る」「決定権のない者と交渉する」という具合だ。今後は、戦争ではないものの平和でもない“新常態”に北東アジアは突入すると展望する。

(聞き手 森 永輔)

一見したところ会談を主導したトランプ米大統領(右)。果たして交渉上手はいずれだったのか(写真:AFP/アフロ)

今回の米朝首脳会談で最も注目したのはどんな点でしょう。

宮家:一つは、交渉の進め方。「ディール・メーカー」「交渉の達人」を自賛するドナルド・トランプ米大統領の外交交渉が自滅したことです。それも北朝鮮のような小国にすら通用しなかった。セオリーを軽視し、無手勝流を通したつけが回ったのです。将来、外交の教科書に失敗事例として載るのではないでしょうか。

宮家邦彦(みやけ・くにひこ)キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1978年外務省入省後、外相秘書官、中東第一課長、日米安保条約課長、在中国/イラク大使館公使、中東アフリカ局参事官等を経て、2005年に退職。その後、2006~7年、安倍晋三内閣で総理公邸連絡調整官。現在、外交政策研究所代表、立命館大学客員教授も務める。近著に『語られざる中国の結末』(撮影:陶山 勉 以下、同)

セオリーに則っていないとは、どんな行動を指しますか。

宮家:例えば、切り札を最初に切ってしまいました。首脳会談は本来、最後に切るカードです。実務者が協議して内容を詰めた末にやる。まして今回のケースでは、北朝鮮側が切望している会談ですから。

 さらに、首脳による1対1の協議を冒頭に持ってきました。安倍晋三首相のように何度も会っている相手なら、それでもかまいません。しかし、金正恩(キム・ジョンウン)委員長とは初対面です。まずはみんなで会って、どのような人物かを見極めるべきです。

 二つ目は共同声明の内容について。北朝鮮は非核化について、従来からの主張を守り通し、一切譲ることがありませんでした。「これはすごい。まして米国相手に」と思いました。まあ、攻める米国があまりに稚拙だったので、救われた部分もありましたが。

 三つ目は、北朝鮮が自らを普通の国に変えようとしているようにも見えることです。例えば、以前より情報を公開するようになりました。これが本当なら金委員長は冷戦を終了に導いたソ連のゴルバチョフのような存在になるかもしれません(関連記事「金正恩がゴルバチョフになる可能性を読む」)。この点は、たまたま道下さんと同意見です。しかし、それゆえ北朝鮮の政治体制がかえって危なくなる可能性があります。

 米国は、米朝首脳会談がもたらすこうした効果を計算に入れているのかもしれません。ただし、入れていないかもしれない。

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著者プロフィール

森 永輔

森 永輔

日経ビジネス副編集長

早稲田大学を卒業し、日経BP社に入社。コンピュータ雑誌で記者を務める。2008年から米国に留学し安全保障を学ぶ。国際政策の修士。帰国後、日経ビジネス副編集長。外交と安全保障の分野をカバー。

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いただいたコメントコメント14件

共同声明を見れば平凡な成果にしか見えない。三宅氏はトランプ大統領があまり好きではないからねぇ、辛口の採点になってると思います(笑)。しかし、私はこれから成果が見えてくるように思えてなりません。

実は韓国なんかより北朝鮮と仲良くする方がアメリカには得することが多いんじゃないかなと思いますよ。なんかアメイジング!なシナリオがある気がしてならないのです。金正恩と仲良くすれば、北を動かすのは容易く、中途半端に民主主義国家になってる韓国なんぞより御し易いとトランプ大統領は踏んでるのではないでしょうか。

朝鮮戦争の終結をして、米軍を韓国から引き揚げ北朝鮮に米大使館を置き、軍事同盟を交わして米軍を北に駐留なんて超々ウルトラCはないんでしょうかねぇ(笑)。(2018/06/15 14:09)

会談後の動きがまだ見えてこない段階で失敗と言い切るのは如何なものでしょうか。
最初の2人だけで行った会談の内容が明らかになっていない状況では2人の間にどのような駆け引きがあってどのような結果がもたらされたのかわかりようもないでしょう。
そもそも相反する意見の落とし所を見つけるための会談、共同声明が双方にとって当たり障りのない表現になるのは仕方がない事ではないでしょうか。
体制保障を謳う手前、金正恩委員長が事実上全面降伏していたとしても、事をスムーズに進めるために北朝鮮国内を騒がせない事も一つの考えとしてはあり得ます。
あと一月もすればもう少し動きが見えてくるでしょう。その時もしくはもっと後に判断しても遅くはないと思いますが。(2018/06/15 13:34)

トランプを拙速と判断する根っこは「本来なら実務者が協議してまとめた結論をもって、トランプ大統領が金委員長を説得する段取りを取るべきでした」という意見を言っています。
これができないから、これまでと違う打開策が何か必要だと私は考えます。
その一つとして先にトップ同士で融和をみせ実務者の協議に歩み寄りを図る手もアリとは思います。前政権の批判や分析、ブラフだけでなく、実務でこれに持ち込んだことは素直にすごいと思います。(2018/06/15 12:42)

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