年収7000万円サラリーマンが農業に転じたわけ

もう「もうからない」とは言わせない

 前にも書いたような気がするが、農業の取材をしていると、「もっと目線を上げるべきだ」と思うことがある。

 現場を歩いていると、知らず知らずのうちに「畑からの目線」になってくる。それじたいは必要なことではあるが、ついつい「ほかの産業の論理は農業には通じない」という発想が忍び込む。そんななか、斬新な経営と出会うことで、「地べた」から目線が離れる。農業法人のサラダボウルグループを経営する田中進氏への取材も、農業への視点を新たにするきっかけとなった。

農業経営の革新の可能性を語る田中進氏(山梨県北杜市)

「ビジネスマンの感覚」に新鮮な驚き

 昨年8月、田中氏が運営する山梨県北杜市のトマトの栽培施設を初めて訪れた。約束は午後4時。ところが、施設の一角で待っていても、田中氏はなかなか姿を見せない。「役員会が長引きまして」と言いながらすまなそうに現れたが、後ろが6時と区切られていたため、この日はインタビューをあきらめ、写真撮影だけをすませて東京に戻った。

 当然のことだが、これは田中氏がアポの時間に遅れたことを批判するためのエピソードではない。よく農場に取材に行くと、「半日」とか「1日」などのゆったりした時間で取材対応してくれることがある。取材が終わると、「じゃあ、一杯」と言って食事に誘ってくれることも珍しくない。何ともありがたい話なのだが、ふつうの企業経営者がこういう取材対応をすることはまずない。

 これに対し、あとでわかったことだが、田中氏はまさにビジネスマンの感覚で、細かくスケジュールを管理していた。そこに「農業界でもいよいよこういう経営が登場したのか」と、新鮮な驚きを覚えたのだ。ほかにも取材で待たされるケースがなかったわけではないが、たいていは「田んぼの様子を見て回っていたら、遅くなった」といった理由だった。

 これも念のためにつけ加えておくが、取材の時間に遅れたとはいっても、インタビューだけなら6時までに終えることは十分にできた。だが、この日はカメラマンも同行していたため、現地での撮影を優先し、改めて取材の時間をもらうことにした。撮影があることをきちんと伝えていなかったこちらのミスだ。

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著者プロフィール

吉田 忠則

吉田 忠則

日本経済新聞社編集委員

1989年京大卒、同年日本経済新聞社入社。流通、農政、行政改革、保険会社、中国経済などの取材を経て2007年より現職。2003年に「生保予定利率下げ問題」の一連の報道で新聞協会賞受賞。

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いただいたコメントコメント8件

「志はすごいがバカだと思う」と言うコメント氏。なぜそう思うのだろう?
好きなことをやって、成果が上がって、自分も面白くて、社会のためにも
なっている。そんな人生を選ぶことができた人を「バカだ」なんて。その感性
というか理屈がどうしてもわからない。とはいえコメント氏なりに、もっともな
理屈があるのだろう。と頭をひねって、ようやく無理矢理ひとつ思いついた。

「彼が成功したのは結果論で、失敗したかもしれないのだから確実な7000万円を
手放さないのが利口」

っていう理屈なのかな。

でもきっと、それまでのキャリアで蓄積した知見と能力で、この分野でもできる
という彼なりの勝算があって、彼は人生をシフトしたのだと思います。少なくとも
こういう人は沈みつつある泥船にしがみついて道を誤るようなことはしないこと
でしょう。他山の石としたいです。(2017/04/22 23:09)

7000万を捨てたのではなくて、それを元手に農業法人をCEOとして立ち上げたと理解します。次回は、是非このような会社で働く人にもスポットをあてた取材をお願いします。草取りの話題に便乗しますが、農業を村落共同体の一環として捉えれば、隣地の田畑に草の種が飛散しないような配慮は、農民の矜持であった時代もあったわけです。除草に矮小化した議論ではないと思います。最後に、久しぶりに東海銀行出身の方と聞き懐かしさを覚えました。(2017/04/22 14:11)

家庭菜園程度ですが、草取りはなかなかたいへんです。もちろん取ったほうがいいですが、程よく雑草があると乾燥を防ぎながら水はけもよくなります。時々、雑草のない黒々とした畑を見ますが、「薬使ってるのかな〜」と思いますね。農業は、勤勉に働けば働くほどちゃんと結果に出ます。だから、歴史上、農耕が始まって貧富の差ができたというのは納得です。脱サラで就農する時、のんびりした生活を目指す方が多いですが、この方はそれこそ「24時間働け」のやり方を農業に持ち込もうというのでしょうか?続きが楽しみです。(2017/04/22 07:07)

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