海外へ羽ばたく農場経営の「遊び感覚」

国境を越える人材育成

 農業法人のサラダボウル(山梨県中央市)グループを率いる脱サラの経営者、田中進氏のことを前々回前回の2回にわたって紹介した。創業当時の困難を克服し、グループ会社を増やしながら、田中氏がたどりついたのは農業界の古い格言だった。

 「上農は草を見ずして草を取り、中農は草を見て草を取り、下農は草を見ても草を取らず」

 田中氏はこの格言を、たんに雑草を防ぐための言葉とはとらず、農業の現場で起こりうる様々なトラブルを未然に防ぐための戒めと理解した。そこでトラブルに「商機を逃すこと」まで含めれば、言葉の意味はもっと広がる。今回は海外事業を取り上げようと思う。

メード・バイ・ジャパニーズ

 例えば、前々回、田中氏とのアポイントメントの場所が羽田空港だったことに触れた(4月21日「年収7000万円サラリーマンが農業に転じたわけ」)。田中氏は羽田からどこへ向かおうとしていたのか。答えは沖縄だ。

 政府は沖縄を国際的な物流のハブ拠点にしようと後押ししている。そして、このとき田中氏が視察の対象にしたのが、全日空のグループ会社やヤマト運輸などの施設だ。行政関係者との面談も予定していた。海外に自社の作物を輸出するための視察なのか。そうたずねると、田中氏は次のように答えた。

 「輸出はほとんど起こらないと思ってます。そこには社会的な要請がない」

 農業を成長産業にするため、官民挙げて農産物輸出の旗を振っているなか、田中氏はなぜその可能性を否定的にみているのか。「神戸ビーフなど、そこでしかつくれないものは、輸出する意味がある」。続いて田中氏は、自社農場でつくっている作物を例に挙げ、「トマトなんて、どこでつくってもおいしいものはおいしい」と話した。

 何とも冷めた言い方のように聞こえるが、真意はそこにはない。「日本のメソッド、クオリティーこそが社会的に求められている。メード・バイ・ジャパニーズであり、チェックド・バイ・ジャパニーズです」。日本人が農産物をつくったり、日本人が栽培をコントロールしたりすることが海外で求められている。田中氏はそう考える。これに対し、「高いお金をかけてモノを動かすことには社会的要請を感じない」。

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著者プロフィール

吉田 忠則

吉田 忠則

日本経済新聞社編集委員

1989年京大卒、同年日本経済新聞社入社。流通、農政、行政改革、保険会社、中国経済などの取材を経て2007年より現職。2003年に「生保予定利率下げ問題」の一連の報道で新聞協会賞受賞。

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