桃より甘いホウレンソウができるわけ

これを「奇跡」と言ってはいけない

 「有機栽培は作物の質を高め、収量を増やすことのできる技術だ」

 こういう説明を聞いて、どう思うだろう。「それはおかしい。有機農業は農薬や化学肥料を使う現代農法より難しく、天候の影響を受けやすくて収量は不安定」と思うのではないだろうか。

 有機肥料の販売やコンサルティングを手がけるジャパンバイオファーム(長野県伊那市)の代表、小祝政明さんはこうした見方を否定する。「本来、有機栽培のほうが安定している」と。

「先人にはできた。いまの野菜がだめなだけ」と話す小祝政明さん(千葉市若葉区)

 ただし、ここで言う有機栽培は「環境にいいから」「安全で安心だから」という素朴な発想で続いてきた有機農法とはだいぶ違う。植物生理や土の構造を理解し、データを使ってものを考えることに慣れないと、実践は難しい。

 それを知るために、千葉市の郊外で8月に開かれた勉強会に参加した。

食べた人をびっくりさせる甘さに

 「ブロッコリーの糖度がふつうの2倍になる。食べた人は、いったん口から出します。自分が食べたのが何なのかを確かめるために。桃より甘いホウレンソウもできる」

 「50年前、先人たちはやっていた。50年前は、化学肥料は使われていなかった。そこに何か違いがある」

 「作物にモンシロチョウがつかない。葉っぱにワックスができ、においをかげないから、葉っぱがどこにあるか分からない。そういう土づくりをするんです」

 「堆肥を入れるというのは、地面のなかに太陽を入れるのと同じことです」

 刺激的な言葉が、次々と飛び出す。「ブドウ糖(C6H12O6)」「クエン酸(C6H8O7)」「ビタミンC(C6H8O6)」。スクリーンに様々な化学記号が映し出される。「え?ビタミンCって炭水化物の仲間だったのか」。驚いているうちに、化学の知識が忘却のかなたにある筆者は内容に追いつけなくなる。

 勉強会を主催したのは、農業技術の体験教室「フォトシンセシス」を運営する高橋有希さんだ(2月27日「『勉強大好き!』農業女子式“進化論”」)。9年前に農業教室の生徒の募集や運営から始め、講師役の農家の技術と知識を吸収して自ら講師を務めるようになった勉強家だ。「学ぶのが大好き」という高橋さんが、小祝さんを囲んで勉強会を開く気持ちがよく分かる。

勉強会の様子を記録する高橋有希さん

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著者プロフィール

吉田 忠則

吉田 忠則

日本経済新聞社編集委員

1989年京大卒、同年日本経済新聞社入社。流通、農政、行政改革、保険会社、中国経済などの取材を経て2007年より現職。2003年に「生保予定利率下げ問題」の一連の報道で新聞協会賞受賞。

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