桃より甘いホウレンソウができるわけ

これを「奇跡」と言ってはいけない

 会に参加した農家たちは、食い入るようにスクリーンを見つめ、メモをとる。自らの経営に直結するから、質問も次々出る。パソコンで施肥設計ソフトに鶏ふんや牛ふん、もみ殻など有機肥料の原料の量を入力し、窒素と炭素のバランスが最適になる値を探す。一言も聞き漏らすまいと、高橋さんはICレコーダーで録音する。だれも居眠りなどしない。これほど知的刺激に満ちた勉強会を取材できることはめったにない。

 なぜ有機栽培で野菜の味や収量が高まるのか。小祝さんの言葉を借りれば、むしろ「有機栽培だからこそ」ということになるのだが、常識をくつがえすこの言葉をどう説明すればいいのか。小祝さんの著書と勉強会を通して理解できた内容のポイントをあげると、以下のようになる。

余った炭水化物が糖度と味を高める

 これまでの農学は、植物が体をつくるもとになる窒素を、無機態の形でしか吸収できないと考えていた。窒素を含む硝酸を根が吸収し、いくつかの段階を経たあと、葉っぱでできた炭水化物とくっついて有機態になり、アミノ酸、そしてたんぱく質に変わると考えてきた。

 ところが最近の研究で、より分子の大きい有機態のアミノ酸も吸収できることが分かってきた。これが最大のポイントだ。

土壌の成分の分析が出発点になる

 すると何が起きるか。いくつかの段階を飛ばしてアミノ酸で吸収するから、少ないエネルギーで、細胞のもとになるたんぱく質をつくることができる。細胞がたくさんできれば、根も葉も丈夫になる。省エネだから、光合成でつくった炭水化物を、呼吸で消費するのを節約できる。

 一方、アミノ酸そのものが炭水化物を含んでいるから、日照が足りず光合成がうまくいかないとき、炭水化物を補うことができる。炭水化物は繊維のもとになるから、植物の表面がしっかりして、害虫への抵抗力が増す。炭水化物が余ると糖度が高まり、作物の味が上がる。

 有機質の堆肥を畑にまくことで、土づくりもできる。勉強会ではそれを実践した。堆肥を入れた畑に透明のシートを敷き、太陽熱で温度を上げ、微生物に有機質を分解させる。このとき発生するガスが土をくだき、ふかふかにする。そのあとシートをとると、べつの菌が土を一定のまとまりに吸着させ、保水性と排水性に優れた団粒構造ができる。植物の根は、そのすき間をぬって繁茂する。

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著者プロフィール

吉田 忠則

吉田 忠則

日本経済新聞社編集委員

1989年京大卒、同年日本経済新聞社入社。流通、農政、行政改革、保険会社、中国経済などの取材を経て2007年より現職。2003年に「生保予定利率下げ問題」の一連の報道で新聞協会賞受賞。

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いただいたコメントコメント1件

こういう事は本来ならJAが教えるべきでは…まあ今のJAでは農家の味方じゃないから、商売の邪魔になる理論は無理かな。(2015/09/25 18:08)

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